“アイアン”マイクの真実に迫る

テレビの「NHK BSプレミアム」による〈アナザーストーリーズ〉シリーズは、結構、興味ある企画を提供してくれています。

9月19日(午後9時~)の放送は「マイク・タイソン敗北~世紀の転落 27年目の真相~」と題して、最強を誇ったプロボクシングの元統一ヘビー級王者“アイアン”マイク・タイソン(現在51歳)を取り上げ、2度目の日本での試合(東京ドーム)となった1990年2月11日のジェームス“バスター”ダグラス(米国)戦での衝撃的な敗北とその後の挫折、知られざる再生、を携わった人々の証言とともに掘り下げていました。

タイソンは1986年11月にまず、WBC世界ヘビー級王座を獲得します。その後、WBA、IBF王座も次々に獲得、21歳の若さで3団体統一ヘビー級王者にまで上り詰めました。

このころ、帝拳(本田明彦会長)が、東京ドームのこけら落としのイベントとしてタイソンの招へいに動き始め、この時期、スポニチ本紙のボクシング担当記者だった私も、この件に取り組みました。

1988年3月21日にトニー・タップス(米国)相手に3度目の統一王座防衛戦が東京ドームで行われることになりタイソンが初来日。振り返ってみれば、この時代が最強だったのではないかと思われる、このときのタイソンは、名伯楽カス・ダマトのチームに率いられ、欲望をコントロールされ、それをリング内で爆発させる無類の強さがありました。2回2分54秒、TKOでタップスを一蹴-。

2年後、2度目の来日のとき、タイソンの周辺はガラリと変わっていました。大物プロモーターのドン・キングが率いるチームに変わり、取り巻く面々は、親しい幼馴染ばかりで厳しさがなく“緩い空気”が漂っています。

何よりも、アレレ、と思ったのは、タイソンが最も動きやすい、いつもの〈体重98キロ〉を保てず〈100キロオーバー〉となって計量を終えたことでした。

ホコリにまみれた当時の取材メモを取り出し、めくってみると、私は「こだわりを捨てた」「妥協が満ちあふれている」「ピンチ」などの言葉を書きこんでいます。

必然だった2度目の日本での敗戦

あるいは、やはり、だったかもしれない〈世紀の番狂わせ〉と言われた敗戦。10回1分23秒、KO負け・・・。

「アナザーストーリーズ」は、キャッツキルで今は政治家として活動する親友トム・パティ氏の言葉を紹介します。

キャッツキルのダマトのジムに寝泊まりしてボクシングに励んだ日々。「カス(ダマト)は強さを支える背骨のような存在だった。彼の死去(1985年)により、あるいはマイクの挫折が始まっていたのかもしれない」

ダグラス戦での敗戦を観(み)たカス・ダマトの遺志を継ぐ元マネジャー、スティーブ・ロットが口を開きます。

〈(マイクは)重大なミスを犯していたよ。2年前(初来日のとき)は、練習の姿勢からがストイックだった。ボクシングに向き合う姿が真摯だった〉

つまり〈必然の敗北だった〉と-。

この東京での初黒星を境にタイソンは、さまざまな社会的事件やリング上でもトラブルを起こして転落していきます。

「アナザーストーリーズ」は、恩師ダマトの言葉を紹介します。

〈戦いは人生に似ている。問題は負けたことではない。負けた後、どうするかだ〉

紆余曲折を経て38歳で引退したタイソンに寄り添った心理療法士のマリリン・マレー女史は、いつまでも心を開かないタイソンに手を焼きながらも、最後は「本当のことを人前で話せるようになった。彼は愛情をもらわなかったが、人に愛情を注げるようになった」と話しました。

1966年6月30日、ブルックリンのスラムで誕生したマイケル・ジェラルド・タイソンは、常に寂しさと孤独に耐え、心に傷を負った、鳩を愛する少年として育ち、生活の糧となったボクシングも少年院で習得しています。

そういえば初来日のとき、タイソンは、日本に住みたい、といっていました。その裏に〈差別のない日本〉への憧憬があった、と伝えられました。

優しさとそれを隠す凶暴さで心を閉ざし続けたタイソンという男を「アナザーストーリーズ」は、関わった人たちの証言で浮き彫りにしていました。

私自身、長い記者生活の中で〈タイソン取材〉はかなり、思い出深いものがあり、負けた後、どうするかだ、とのダマトの言葉を受けて、時間がかかったものの、最後は立ち直った、としてこのストーリーを締めた番組にかなり、共感を覚えました。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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