降り続く強い男たちの“涙雨”

あっ、あ~っ、と思わず、声が出てしまいました。

4回2分過ぎ、黄色いタオルがリング上に舞うと同時にトレーナーが試合を止めてしまったときです。

8月15日夜、島津アリーナ京都で開催されたプロボクシングのWBC世界バンタム級タイトルマッチ、王者・山中慎介(34=帝拳)の13度目の防衛戦-。

私はこの試合、テレビ観戦(試合は日本テレビ系が同日午後7時56分から生中継)でしたが、リングサイドの放送席に座った具志堅用高氏(元WBA世界ライトフライ級王者=世界王座13連続防衛の日本記録を保持)の「早いな~」の声を聞くまでもなく、この場面には少々、違和感を感じて“いいのかな?”とつぶやいてしまいました。

相手のルイス・ネリ(22=メキシコ)は、ここまで24戦全勝(18KO)の戦績を持つ、ランク1位の指名挑戦者です。

山中にしてみれば、勝てば具志堅氏の防衛記録に37年ぶりに並ぶという大一番です。考え方はさまざまあり、まず記録をクリアしておこう、と勝利を優先するなら、それなりの相手を選ぶこともできたと思いますが、元世界王者・浜田剛史氏(帝拳ジム代表)の「具志堅さんに失礼がないように」との意向、山中自身の“常に強い相手を”との姿勢で最強チャレンジャーを迎え撃つことになりました。

初回、山中の滑り出しは悪くありません。効果的な右ジャブをリードブローに自分の距離をキープしながら、あの左〈ゴッド・レフト〉の炸裂(さくれつ)をうかがう戦い方です。

しかし、2回、ネリが一気に攻撃を開始しました。積極的に前に出て大振りの左右フックを振り回し、山中もそれをもらってしまい、打ち合いにもつき合う、何となく“らしさ”を欠く攻防となってしまいます。

封じられた“神の左”

それが3回も続き、激しい打ち合いとなる中、ブンブンと音が聞こえそうなネリの回転の速い、止まらない連打で山中は追い込まれてしまいました。

とはいえ、山中陣営にとってそれは想定内だったことでしょう。山中とはひと回りも若いネリの負けを知らない勢い。それを前半はしのぎ、後半に勝負を持ち込む作戦-。

まず序盤戦の4回をしのいで・・・といった矢先にネリの猛攻を浴び、ダウンこそなかったものの、相当に攻め込まれた印象は拭えなかったと思います。

が、しかし・・・そこでタオルの投入は、私は、山中だけに、しかも、大記録を懸けた試合だけに「エッ?」となってしまい、ここは中途半端な終わり方をするより、徹底的に戦わせ、負けるならKO負けでも、山中自身が納得するのではないのかなァ、と観(み)る側もちょと、不完全燃焼となってモヤモヤが残りました。

試合が終わり、私もさまざまに考え込んでいるとき、携帯電話が鳴って、日ごろ親しい記者仲間が「観た? どう思った?」と連絡してきました。

まず、2回以降、山中らしさがなくなった戦い方、距離を詰められ攻め込まれた4回をしのいだとしたら中盤以降、巻き返しただろうか、という展開、などを話し、それらと関連して2011年11月に王座を獲得して以来、5年9カ月の長期政権を経て、モチベーションの維持はどうだったのだろうか、という点がテーマとなりました。

悔しい敗戦の中、タオルで顔を覆う山中の姿が印象的でした。

男泣きといえば、ゴルフの「全米プロ選手権」で惜敗、やはりタオルで顔を覆った松山英樹(25=LEXUS)に触れたばかりです。

折から日本の8月は、16日間というもの、晴れなしの雨ばかり、となりましたが、それは、あるいは、この強い男たちが味わった、悔しい“涙雨”に思えてしまいました。
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因縁対決の完全決着なるか!

ボクシングの2012年ロンドン五輪(ミドル級)金メダリストでWBA世界ミドル級1位・村田諒太(31=帝拳)の世界再挑戦が決まり、8月3日、正式発表されました。

試合は今秋10月22日に東京・両国国技館で行われ、相手は初挑戦時の相手、今はWBA世界ミドル級王者となったアッサン・エンダム(33=フランス)へのダイレクト・リマッチによる挑戦となりました。

あの“疑惑の判定”による敗戦(2017年5月20日=東京有明コロシアム)から2カ月半を経ての再戦決定-。

意外に早かったよなァ〉というのが、記者の間で結構多く、聞かれた、ちょっと驚き? も含んだ感想でした。

5月20日、WBA世界ミドル級王座決定戦で行われた1位・エンダムvs2位・村田の試合。4回にダウンを奪うなどした村田が優勢とみられていましたが、結果は1-2の判定負けとなりました。

このジャッジの判定には、国内外から多くの疑問符が投げつけられ、WBAの立会人フリオ・タイム氏も「申し訳ない」と謝罪。試合の翌日21日には、何とWBAのヒルベルト・メンドサ・ジュニア会長までもが、判定は誤り、お詫びしたい、との異例の声明文を発表するに至っています。

エンダムvs村田の再戦決定

記者間でささやかれた〈意外に早かったよなァ〉は、再戦するにしても、初戦での王座決定戦と再戦での王座に挑戦とでは、条件面で立場上、大きな差が出ます。

加えて初戦が終わった時点で健闘の村田には、WBCやWBOから盛大なラブコールが送られており、WBAへの不信感、怒りを隠せない帝拳ジム・本田明彦会長は、WBAの再戦指示は“選択肢の一つでしかない”と半ば、背を向けた感じでもありました。

初戦終了後、今後に関して“白紙”とした村田に対し、本田会長は「村田が続けるというならサポートする」という姿勢を見せ、その後、村田が次第に世界再挑戦の意向を強くするにつれ、本田会長も交渉に動き始めています。

その間、WBAがエンダムと村田の再戦に関する興行権を決める入札を行うことを一方的に発表するなど、帝拳側をイラ立たせる出来事もあり、とはいえまず、因縁が生じたエンダムとの戦いに決着をつけないことには先に進めないこともまた確かで、エンダム陣営との交渉に着手した、ということなのでしょう。

10月の日本開催、8月3日の会見にフランスから緊急来日して出席したエンダムの姿勢、などに交渉の背景がチラリとのぞかれもしています。

とはいえ“完全決着”が求められるこの再戦は、簡単なことではないですね。

お互いさまではありますが、実力も手の内もほぼ、分かっている者同士の対戦です。そこでどんな“引き出し”を用意してきているか、村田にとってエンダムとの再戦は、ともにぶつかり合う中、勝負を分けるのは、一瞬の頭脳の戦いとなりそうな気がします。

まあ、そうしたことに関して村田は、結構、得意ではありますが、果たして結果は・・・。

“KOダイナマイト”の引退に思うこと

プロボクシングの前WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者・内山高志(37=ワタナペ)がこのほど、現役引退を表明しました。

“KOダイナマイト”の異名を持ち、怖いほどの迫力あふれる戦い方で日本歴代3位となる世界王座11連続防衛を果たした名王者-。

あの勇姿をもう一度見たい、と思う一方、あの勇姿を損なう負け方は見たくない、と周囲が思う微妙な立場に立たされた中、内山が選択した決断は「引退」でした。

7月23日の日曜日、東京・大田区総合体育館で開催されたワタナベ勢のダブル世界戦に内山は、試合を中継するテレビ東京のゲストとして姿を見せていました。

この時点では、こういう場に姿を見せるのだから“現役続行”かな? とも思わせましたが、それから6日後の7月29日、引退表明となりました。

一番の理由を〈モチベーションの低下〉とした内山は、会見の席で「以前のように練習で100%追い込めなくなった自分がリングに上がるのはどうなのか」と進退に悩み続けた内面を吐露しています。

まさかの敗戦は、2016年4月27日(東京・大田区総合体育館)の12度目の防衛戦、暫定王者(同級1位)のジェスレル・コラレス(パナマ)とのタイトルマッチでした。

この試合、内山は立ち上がりからコラレスのスピードと手数に後手を強いられ、リズムに乗れないまま2回、大振りの左を浴びてダウン、立ち上がったものの、足元がふらつくところを狙い撃ちされ2回KO負けを喫してしまいました。

プロ初黒星で王座陥落・・・。

が、それ以上に痛かったのは、コラレスとのリマッチでの敗戦だったでしょう。

一番の理由は“モチベーションの低下”

コラレスに敗れた内山は、現役続行を表明。コラレスとの再戦交渉も合意の運びとなり、2017年12月31日、東京・大田区総合体育館での注目の一戦が実現しました。

誰もがコラレスとの初戦を、内山らしからぬ戦い方で“本当の姿ではなかった”と思い、このリマッチに復権を期待、戦う前から既に内山勝利のムードが館内に溢れていたような気がします。

しかし、展開はそんな生易しいものではありませんでした。内山が出てくることを予測したコラレスのカウンター狙いに内山は踏み込めず、一歩が出ないからパンチに力が伝わりません。またまた何とも“らしからぬ”戦い-。

ボクシングの怖さは、内山であっても、一度負けると以前の強さにはなかなか戻れないものなのだなァ、と感じる試合運びとなってしまいます。

国内ジム所属選手が過去、世界王座から陥落して後のダイレクト・リマッチは10例ありますが、返り咲いたのは輪島功一の2度と徳山昌守の3例しかなく難しさを物語っていますが、内山も例外というわけにはいかない1-2判定負けとなってしまいました。

それから7カ月。長年、苦しめられた拳の負傷を含めて今後どうするか? 進退の結論を出すのは、難しかったことでしょう。

一番の理由とした〈モチベーションの低下〉は、今季限りでの現役引退を表明した女子プロゴルファーの宮里藍(31=サントリー)と同じです。

宮里は、2010年に年間5勝を挙げ、世界ランク1位にもなり、ゴルファーとしてピークを迎えている感触があるのにメジャーに勝てないのはなぜか? に悩み、自分を見失い、何よりも〈今までやれていた練習ができなかったり、トレーニングでも自分を追い込むことができず、自分が望んでいる形ではなかった〉と語っています。

面白いものです-という言い方は語弊がありますが、プロボクシングでプロゴルフでも、高みを目指してきた一線級選手が、あるべき姿を追い求められなくなったとき、もはや限界! を感じるのですね。

それに比べると妥協だらけで日々を過ごしている私の形など恥じ入るばかりです。(まあ比較すること自体が間違っていることは承知の上ですが・・・)

ときを同じくして元WBC世界スーパーフェザー級王者・三浦隆司(33=帝拳)も現役引退を表明しました。

内山の“KOダイナマイト”も三浦の“ボンバーレフト”も、まだまだ見たい思いはありますが、戦い続けた両雄が自らに下した結論を尊重、それに対して“惜しまれる”という言葉は封印したいと思います。

ともにボディー攻撃で勝利をつかんだ夜

会場の東京・大田区総合体育館は、2人のプロボクサーの“怒涛の連勝”で大いに沸きました。

7月23日夜に開催されたプロボクシングのダブル世界戦、WBA世界ライトフライ級王者・田口良一(30=ワタナベ)の6度目の防衛戦とIBF世界ミニマム級王座に挑戦した京口紘人(23=ワタナベ)の健闘です。

時折り、小雨が降る曇り空となった日曜日の午後、会場に向かった私は、その前に親しい記者たちと会場近くのファミレス「G」で合流、夜の試合に備えて腹ごしらえの時間を持ちました。

その席でいつも通りのボクシング談議が始まり、話題は〈名王者〉とは? のテーマとなりました。

ベテランのY記者が言います。

〈今はハッキリあるのかどうか知らないけど、ひとつの基準として、かつては5度の防衛で名王者と言われたよな〉

昨今、山中慎介、内山高志、長谷川穂積たち、それこそ名王者と呼ばれる面々が、2ケタ防衛を果たしていることから、5度では・・・ともなりますが、口で言うほど5度が楽でないことは確かでしょう。

フ~ン、なるほど・・・であれば、V5に成功し今回、6度目の防衛戦に挑む田口は、名王者なんだねェ。どうもピンとこないのは、やはり、田口の試合、アピール度が足りないからなのかな?

そういえば、田口自身もそれを気にしていて“ツヨカワ”などと呼ばれるのを嫌い「防衛回数に見合った評価をしてもらいたい」などと言っていましたっけ。

その意味では今回、1位の指名挑戦者ロベルト・バレラ(コロンビア)を迎えての防衛戦は、勝利はもちろん、どういう勝ち方をするか、という内容が問われる大事な一戦となったことは間違いありません。

“ツヨカワ”転じて“名王者”の称号も・・・

といったことを含めて田口がどう戦うか、さあ、試合開始の時間です。

バレラの戦い方は予想通りです。

序盤から積極的に攻め、頻繁(ひんぱん)にスイッチが繰り返されます。右構え、左構え、また右構え・・・が、田口は慌てず騒がす、落ち着いてバレラのパンチの軌道を読み、プレッシャーをかけて後退させ、左のボディーから右を上に返し、理想的な攻撃を展開させました。

スポニチ本紙の世界戦評論でおなじみの元世界王者・浜田剛史氏(帝拳代表)は「いい攻撃ですね。教科書通りの攻め方です」と話しました。

浜田氏が、2人の攻防で田口の成長を指摘したのは3回でした。1、2回をリードした田口に対しバレラは3回、反撃に出ます。田口はそれに付き合って打ち合うのではなく、プレッシャーをかけてロープに追い込み、封じ込める対応をとりました。抑え込まれたバレラにとっては痛手となりました。

もう一つの分岐点は9回です。

4回以降、田口にはKO勝利が見えてきて激しい打ち合いが展開されます。ともに疲労が蓄積した7、8回でしたが、迎えた9回、勝負どころとした田口は、気力で瞬間的な猛攻に転じ、TKO勝利をもぎ取りました。

フ~ン、緩急自在の凄い戦い方じゃないか。V6も成功させ、こりゃ、名王者の称号を与えてもいいのでは? 

田口自身も、恐らく納得の戦いができたことでしょうし、これでともに戦いを望んでいるWBO世界ライトフライ級王者・田中恒成(畑中)との統一戦も、一気に具体化の方向に進むことでしょう。

そして・・・もう一つの世界戦、何とプロデビューから1年3カ月の京口が、国内最短で世界王座を奪取してしまいました。

軽量級の割には大振りでバランスの悪い王者ホセ・アルグメド(メキシコ)を京口は、外してカウンターのボディー攻撃で弱らせ、9回に左でグラつかせた後、連打でダウンを奪い、3-0判定の快勝となりました。

身長1メートル61と小柄ですが、やることはさすがにデカい! ジムの先輩・内山高志の〈KOダイナマイト〉にちなんだ〈ダイナマイトボーイ〉の愛称がよく似合う、うれしい夜となったことでしょう。

“ツヨカワ”王者の正念場となるV6戦

プロボクシングの“夏の陣”は、WBA世界ライトフライ級王者・田口良一(30=ワタナベ)が先陣を切ります。

7月23日、東京・大田区総合体育館で開催されるWBA世界同級タイトルマッチで田口は6度目の防衛戦に臨みます。相手は同級1位の指名挑戦者ロベルト・バレラ(24=コロンビア)です。

2014年12月31日、王者アルベルト・ロセル(ペルー)を判定に下して王座を奪ってから2年7カ月。あれよあれよという間に田口は5度の防衛に成功し、イケメンの風貌から“ツヨカワ”などと呼ばれながらも、強い王者に成長してきました。

といっても、昨年大みそかのV5戦では、無敗の挑戦者カルロス・カニサレス(ベネズエラ)に苦戦。最初から積極的に攻めてきた挑戦者の豊富な運動量と強打に田口は決定打を出せず、不本意な引き分け防衛を余儀なくされました。

試合後の田口は「挑戦者の出方が作戦と違って困惑した」と話しました。

が、王者であればさまざまな攻め方をしてベルトを狙ってくる挑戦者への柔軟な対応力が必要だろうし、何よりも本人は、王者として、防衛回数に見合った評価がなされていない、ことを痛感しつつ、すべての人に評価されるような試合、勝ち方をしたい、と自らに言い聞かせました。

その先に見据えるWBO王者との統一戦

今回のV6戦、だから田口は「前回の引き分け防衛で評価を下げたので、今回は(田口は)強い」と思わせる試合をしたい、と話しています。

キッチリと防衛に成功すれば、その先に見据えるWBO世界ライトフライ級王者・田中恒成(22=畑中)との統一戦が具体化してきます。

現在、ライトフライ級の世界王者は、WBC王者の拳四郎(BMB)を加えて3団体を日本人選手が占めています。

認定団体が増えれば、誰が一番強いのか、の競り合いが当然、起きてきますが、田口自身もその渦中にあって浮かび上がってくる課題をひとつひとつクリアしていかなければならない、ということでしょう。

指名挑戦者のバレラは、右構えから再三、左へスイッチしてくることで知られています。田口陣営は、どちらで来てもそれなりの対応ができるようにしてある、と左の強化を明かしています。

試合を中継するテレビ東京のゲストには田中も参戦することも決まり、リングの上・下で静かな火花を散らすことになります。

田口のV6戦は、王者としてひとつの正念場を迎えることになりそうです。
プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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