相撲は国技か? の議論

友人と飲み処(どころ)に出向き、オッ、鍋があるぞ! と寄せ鍋を注文して雑談、そんな中で「日本の相撲は〈国技〉と認識されているのだろうか」という話になりました。

折から、熱戦を展開中の大相撲九州場所(福岡国際センター)の10日目(11月17日)、横綱・白鵬(30=宮城野)が“猫だまし”2発の奇襲を見せて勝利、横綱らしからぬ・・・などの批判を受けました。

相撲を国技と認識しているファンも多いことと思いますが、そういう方々は、国技の頂点に立つ横綱が、など、あるいは眉をしかめたかもしれません。

まあ、常識的には、猫だましなどの奇策は、下位の力士が上位の力士にひと泡吹かせるために用いるものですが、私自身の感想は、別に横綱がやってもいいのでは? でした。

その件は別にして、冒頭のテーマ、友人が指摘した〈相撲は国技なのかどうか〉という判断を起点として、では相撲道に生きるものは、とか、その頂点に立つものとしての矜持は、などの問題が出てくるのではないかと思います。

私自身は、スポニチ本紙に入社したての駆け出し時代、相撲担当記者を命ぜられ、そこから記者人生をスタートさせました。

当時、西も東も分からない相撲界に入り込んで、取材と言うより、分からないことを一から十までがむしゃらに聞き回っていましたが、そうした中で〈相撲が国技である〉という、ハッキリとした文言を関係者から聞いたことはありませんでした。

が、一方、相撲は〈国技というイメージの中に置かれているなァ〉ということは、ことあるごとに感じさせられたものでした。

国技というイメージの中にある相撲

新聞報道にしても、例えば2011年2月、大相撲界の八百長問題が発覚して大騒ぎになったとき、記事の中に「国技・大相撲が・・・」などの記述はなかったし、また2013年1月、元横綱・大鵬の納谷幸喜氏が他界したときも、記事にはやはり〈国技を支えた大横綱〉などの記述はありませんでした。

国技の意味として広辞苑には-。

〈国技〉=「一国の特有な技芸。一国の代表的な競技。わが国の相撲など」

とあります。

ここでは相撲を国技としていますが、その認識がなぜ、まちまちなのでしょうか。

元日刊スポーツ記者で私の記者仲間でもあるスポーツ・コラムニストの工藤隆一氏は、自著「大相撲のなぜ?がすべてわかる本~力士はなぜ四股を踏むのか?」(日東書院刊)で、そこに触れています。

同氏は〈日本相撲協会の寄附行為(公益財団法人の根本規則)には「国技」の文字はどこにもありません〉としたうえで1909年(明治42)、東京・両国に初の屋内相撲常設館が開設されたことで-。

〈(略)完成するまでは単に「常設館」と呼ばれていたが、いよいよ完成する段になって、きちんとした名称をつけなければ、ということになり、当初は「尚武館」「武道館」などが候補に挙がっていた。そんな中、当時の作家・江見水蔭が起草した、常設館開設の挨拶文の文言にあった「相撲は日本の国技にして・・・」のくだりを発見した年寄・尾車親方が「国技の館で国技館というのはどうだろうか」と思いついた(略)〉

同氏は、つまり「相撲=国技」は、この「国技館」の名称から広がったもので、相撲という競技自体が、それ以前から「国技」と呼ばれていたわけではなく(略)・・・ちなみに両国国技館に先だって開設された柔道の常設館は「講道館」と名付けられたが、このときもし「国技館」の名称が使われていたら「相撲=国技=国技館」は存在しなかった、としています。

面白いですねェ。

従って厳密な定義としての「相撲=国技」はないようで、アバウトではありますが“事実上の”とか“国技的な”といったところに位置づけされるのが無難なようですね。
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武道柔道vs競技JUDO

9月に東京で開催された柔道の世界選手権を振り返りながら先日、スポニチ本紙の柔道担当記者と雑談していたところ、あの「指導」が、今後の国際大会でもっと厳しく強化されるだろう、という話になりました。欧州勢を軸に「競技JUDO」化が進む中、これはいったい、何を意味するのでしょうか。

「指導(教育的指導)」とは、柔道の試合での反則判定ですが、国際柔道連盟(IJF)ルールによると、指導が出される基準としては①約20秒間、相手と取り組まず、勝負をしようとしないとき、また②スタンドで約60秒間以上、防御姿勢を取り続けるとき、など競技者の“消極性”について科されるペナルティで、2度受けると「有効」が、3度受けると「技あり」が、相手のポイントとして入り、4度受けると本人の「反則負け」となってしまいます。

私自身は、この「指導」という反則判定に接するたびに、それを受けた選手がどうにも気の毒になってしまいます。もちろん、ものものしい名称である「教育的指導」に値するだけの消極的な選手はいて、ぺナルティを受けても仕方ないという状況もあるのですが、私が気の毒だと思ってしまうのは、どうしてもこの「指導」という反則判定の基準が、試合の迅速化、つまり「競技JUDO」のためにあるのでは? あるいは対戦者の勝負のためではなく、観戦者を楽しませるためにあるのでは? とちょっぴり、うがった受け止め方をしてしまうからです。

「指導」が奪ってしまうもの

人対人、1対1の格闘技であれば、相手が出てきたときにこちらは引く、あるいは機を待つ、というやりとりは、しばしば起きるでしょう。引きながら、待ちながら、どう対処するか。それが日本の守りたい「武道柔道」でしょうし、その矢先の「指導」宣告、つまり、ちょっと(指摘が)早いのでは? というケースが結構、あったように思われました。

今回の東京大会で日本勢の活躍はめざましく、男子勢は金ゼロの低調に終わった前回オランダ大会の雪辱を果たしたと評価されましたが、一方、その背景にある地元開催のホームタウンデシジョン的なルール改正が味方をした、という声が上がったこともまた確かです。つまり、勢いづく欧州勢が得意とするレスリング的なタックル、あるいは足取りなどを、組む前に行ってはならない、というルールが、組んで投げる日本の「武道柔道」にどれだけ味方をしたか、ということです。

しかし、そう考えてみると、日本が本家として掲げる一本勝ちの武道柔道も、結局はルールの中で成り立っているのか、と思わざるを得ません。日本が欧州勢の競技JUDO、つまり、組まずにいきなりのタックルとか、あるいは投げられながらの返し技などを“邪道”と批判するのは勝手ですが、武道としての本質で言うなら、それらのすべてを含めて一本勝ちすることが、本家・柔道の強さといったところではないでしょうか。

柔道担当記者が指摘した「指導」の強化の可能性は、次回の世界選手権、フランス大会での欧州勢の巻き返しを意味しています。つまり、武道的思考の排除。日本が本家を貫くためには、相当な覚悟が必要となりそうな情勢です。




枠内の強さと枠外の強さ

私は進んだ大学で空手をやっていました。
所属した中央大学空手部には、かつて先輩たちがやってのけた「山中湖畔の乱闘」などという不祥事が伝説として語り継がれており、上級生からそんな話を聞かされるたびに新入部員たちは、こりゃ、えらいところに来てしまった、とビビり、尻込みしたものでしたが、それでも何とか四年間をまっとうすることができました。

昨年秋のある日、高校(神奈川県立鎌倉高校)時代からの友人I氏に誘われて「躰道(たいどう)」という武道の大会を見に行きました。躰道は祝嶺正献氏が興した「玄制流」という空手を進化させたもので、空手の直線的な本来の動きに円運動、さらには空中での回転なども採り入れ、三次元の運動空間に適応できる実技、とした画期的な武道です。

友人のI氏は大学時代、これを導入して部として設立させ、やはり高校時代の同期生U氏が初代主将を務めた、といういきさつがありました。

躰道ルールの中で若い武道家たちは、日ごろの稽古の成果を思い切り発揮し合っていましたが、ものの見方というのは面白いもので、若いときとは違い、この歳になって久々に接した武道にあって、私が感じたことは「枠内の強さと枠外の強さ」でした。

つまり、私が大学空手部でやってきたことは「松涛館」という流派の中での稽古であり、それは高校時代に町道場で「剛柔流」を学んでいたこともあり、やり方の違い、解釈の違い、などが随所にあり、その区別がはっきりと分かります。

躰道に励む若者たちも、トーナメントの上位に上がってくる面々はそれぞれ、立派な力量の持ち主ぞろい、豊富な稽古量を感じさせてくれましたが、では一方、その枠を出たときにどうか、別ジャンルとの“異種格闘技”戦には、どう臨むだろうか、などということを考えてしまうのです。

例えば、顔に防具をつける、あるいは顔への打撃は禁止する、などのルールがあるとします。この枠内での彼らは、顔への心配がないために思い切り前に出られます。が、そのルールに守られないとき、どれだけ前に出られるか、どう対応するか、ということです。

これは何も空手などという狭い世界の問題だけではなく、人の生き方にもつながってくるのではないでしょうか。社会人となり、企業という枠内で胸を張っていた人たちが、では、会社を離れて肩書きを外し、枠外に出たときにどうか、ということです。

私自身、守られていた会社組織を離れ、徒手空拳のフリーとして活動するこのごろ、異種格闘技戦に臨むにあたって欠けているものの多さをつくづくと感じるのです。

プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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