原節子さんの死を悼んで・・・

女優の原節子さん(本名・会田昌江さん=享年95)が今年9月5日、肺炎のため亡くなっていたことが明らかになり、新聞各紙がこのほど〈伝説の名女優〉として大々的に報じました。

昨年11月10日には高倉健さん(本名・小田剛一さん=享年83)が、その後を追うように同年11月28日に菅原文太さん(本名・同じ=享年81)が・・・と銀幕のスターたちが次々に他界。その前年2013年1月には大相撲界の元横綱・大鵬(本名・納谷幸喜さん=享年72)も亡くなっており“昭和の終わり”をつくづく感じる訃報となりました。

原節子さんと言えば、思い出されるのはやはり、小津安二郎監督の「東京物語」(1953年=昭28=製作・公開、松竹配給)でしょうか。

この作品は、英国映画協会(BIF)が発行する「サイト・アンド・サウンド(Sight&Sound)」誌が発表した「映画監督が選ぶベスト映画」の1位にランクされたり、また「批評家が選ぶベスト映画」でも3位に入ったり、長いときを経ても、国際的な評価を受けています。

2013年には、小津監督の生誕110年、没後50年を記念してベルリン国際映画祭で上映され、また、永久保存のためにデジタル・リマスターによる修復・リブリントが行われるなど、同監督の作品群の中、後世まで語り継がれ、残されるべき代表作としての価値を高めています。

この名作の公開時、私はまだ、小学校低学年の9歳でした。1920年(大9)6月17日生まれの原さんが、出演時33歳のときであっても、私が原さんの「ハの字」も知る由がありません。

とはいえ、私の母親が映画好きだったため、家の中には、映画の月刊誌などがあり、そのグラビアで原さんの、あのクッキリとした目鼻立ちが印象的なポートレートを、見たような見なかったような、漠然とした記憶が残されています。

その「東京物語」を観る機会を得たのは、つい最近、3~4年前のこと、修復されたデジタル・リマスター版で、でした。

清潔感が際立った昭和の大女優

物語の中、原さんは、尾道(広島市)に住む平山周吉(笠智衆)とその妻・とみ(東山千栄子)夫婦の、戦死した次男・昌二の嫁、未亡人の平山紀子の役で登場しています。

東京に住む子供たちに20年ぶりに会うため、平山周吉・とみの老夫婦は、重い腰を上げて広島を後にします。

途中、大阪に住む三男の敬三(大坂志郎)に会い、長旅を経て東京に着いた2人は、医院を営む長男・幸一(山村聡)の家に落ち着き、そこには美容院を経営する長女・金子志げ(杉村春子)も駆けつけ、よくいらっしゃいました、遠路はるばる大変だったでしょう、お疲れだったでしょう、など、ひと通りの歓待がなされます。

・・・が、お決まりの挨拶が終わればもう、たいして話も続かず、それぞれが日常の、いつもの慌しさの中に放り込まれていきます。

幸一が案内役となって予定された東京見物も、出発直前に急患が入り、キャンセルされてしまいます。家の2階に追いやられる形となった老夫婦は、親でありながら、久々に来た子供の家に居場所がなく、その違和感、孤独感に呆然(ぼうぜん)としてしまうのでした。

こうしたストーリーでハッと気がつくことは〈1953年(昭28)に示唆された今の社会の形〉でしょうか。

作品が公開された昭和28年は、日本ではテレビ放送が開始された年ですが、社会が高度成長へと向かう中、家族の絆、在り方、などに微妙な変化が起こり始めます。田舎から東京に出てきて老夫婦が直面したことは、核家族化の冷たさであり、老い行く者の不安、だったのでしょう。

小津監督が、それを見据えていたのかは、話をうかがったわけでもないので不明ですが、この作品が時代を超えて注目され、そのたびに評価されるのは、それらの“先取り”が含まれているからなのでしょう。

そんな寂しさの中、戦死した次男の未亡人・紀子の優しさだけが、年老いた平山夫婦の胸に響く、東京での唯一の救いでした。

再婚もせずに一人、頑張って生きる紀子との、心温まるひとときの交流により、双方の胸中に共通項としてある「孤独感」は、互いに慰められ、癒されたのでしょう。

ただ、原さんの演じる紀子は、ひとかけらの陰もなく、あくまで明るく、それこそ〈清く正しく前向きに〉生きる女性そのもの、でした。

それは劇中、家族であっても、それぞれに様々な思惑が薄巻く中、原“紀子”だけは一人、狭いアパートでのつつましやかな暮らしがセッティングされても、少しも生活にまみれない際立つ清潔感、を漂わせてしまうのですが、それが〈原節子という女優〉だったのでしょうね。

そしてそれがまた、昭和の銀幕にあって、文句なしの大スター! というものだったのでしょう。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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