映画「情婦マノン」に見る愛のかたち

映画愛好家たちが集まって開催される研修会の11月例会があり、上映されたフランス映画「情婦マノン」(1948年製作=日本公開1950年9月)を観(み)てきました。

フランス映画「恐怖の報酬」(1952年製作=1954年7月日本公開)を観たのは、いつのことだったでしょうか。日本で公開された1954年(昭29)当時、私はまだ10歳の小学生、そのとき観たとは思われないのですが、マリオ役のイブ・モンタン(シャンソン歌手)ら4人の男たちが、トラックでニトログリセリンを運ぶスリリングな展開に息を飲み、終始、手に汗を握っていたことを覚えています。

そんな“恐怖”を生みだした硬派のアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が、それ以前に手がけていたのが、奔放な女と彼女に惚れて夢中になった実直な男の恋の行く末を描いた「情婦マノン」でした。

「恐怖の報酬」で手に汗を握った者にとっては、エエッ! サスペンス映画の巨匠は、こうしたものも創り上げていたんだ、と少々、意表をつかれた感じでしたが、それでも背景には、第二次大戦末期~終戦直後の混乱した世相を随所に描き入れており、そこに硬派クルーゾー監督の面目躍如があり、1949年のヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞にも結びついたのでしょうね。

大戦末期、レジスタンス活動をしていたロベール〈ミシェル・オークレール〉デグリューは、ある日、ドイツ兵相手に売春をしたということで人々のリンチを受けようとしていたマノン〈セシル・オーブリ〉レスコーを救います。

それをきっかけに恋に落ちた若い2人は、ジープを盗んでパリに向かいます。レジスタンス活動を捨ててまでマノンに夢中になった実直な青年ロベールは、その地で貧しくとも、好きなマノンと地道な生活をしたいと望んでいましたが、マノンはパリの華やかさに魅せられ、次第に贅沢な生活を捨てられなくなり、ついにはまた、身を売ることも平気でやってのける日々となってしまいます。

それが、パリに住み、闇屋で生計を立てるマノンの兄レオン〈セルジュ・レジアニ〉のお膳立てだった、と知ったロベールはレオンを絞殺し逃亡。後を追ってきたマノンとともにユダヤ人の一行を乗せてマルセイユからパレスチナに向かう貨物船に潜り込みます。

その途中で発見され、2人は密航に至った経緯を船長に話し、人情家の船長は2人に同情、密航者2人を発見したが海に逃亡し溺死、と航海日誌に記し、逃がしてやります。

クルーゾー監督が意図した究極の愛の怖さ

さて・・・ここからですね、見どころは・・・。そうです。あの、壮絶! というか、凄絶! というか、2人の究極の愛が描かれた、映画史に残る衝撃的なシーンが繰り広げられます。

パレスチナに到着した2人は、他のユダヤ人たちとともに用意された車に乗りますが、途中、車の故障により砂漠を歩き始め、そこでアラブ人に襲われます。マノンも撃たれて死亡。

ロベールは、マノンの両足を肩にかつぎ、遺体を逆さにしてさまよい歩きます。ロベールの服は破れ、逆さまゆえに両目も白目をむいてしまいます。

有名なシーンですね。

やがて力尽きたロベールは、砂漠に穴を掘り、マノンを埋めながらつぶやきました。

〈やっとボクのものになったね〉

と-。

この言葉で私の頭に唐突に思い浮かんだのが「阿部定事件」でした。1936年(昭11)5月、愛人を絞殺し局部を切り取るという猟奇的殺人で逮捕された阿部定は、こう書かれた遺書をしたためていたと言われています。

〈あなたは死んで初めて私のものになった〉

と-。

究極の愛の末にもたらされるこうした共通項は、今も昔も洋の東西を問わず、といったところなのでしょうか。

それにしても・・・と、ともに研修会に参加した映画好きの友人Oクンが言いました。

〈“情婦”のイメージがないんじゃないのかなァ。あのマノン役のオーブリはロリ顔過ぎるよ。もうちょい、男を惑わす妖艶であってほしいよな〉

確かに私もそう思いはしましたが、ロリだからこその世間知らず、奔放さにも限りがない、という、男にとっては、どうにもならないやっかいさ、を生んでいる存在という狙いがあったのかもしれません。

ちなみにセシル・オーブリという女優は、この映画のためにクルーゾー監督が発掘した新人、とあり、小柄な体とロリ顔、そして性的早熟-つまり“小悪魔”的な魅力をウリにした、とのことでした。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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