ファンを悔しがらせる引き際の潔さ

第一線で活躍するアスリートには、必ず訪れる、避けては通れない難題が〈引退への決断〉です。

例えばプロボクサーのそれについて、元世界王者の浜田剛史氏は、自らの経験を踏まえてこう言います。

〈悔いを残しているか、いないか、が、決断の物差しとなりますね。(敗れた選手が)持てる力を出し切ってのものと考えるなら“(引退も)仕方ない”となるでしょう。出せなかった不満が残れば“もう一丁”となるでしょう〉

また、帝拳ジムのマネジャーを務め、長い間、多くのボクサーと接してきた長野ハルさんは、こう言いました。

〈負けたとき、負けた理由がわかって、それが希望につながるなら再起するでしょうし、つながらなければ絶望的(引退を決断)になるでしょうね〉

プロボクシングのWBC世界スーパーバンタム級王者・長谷川穂積(35=真正)が12月9日、引退を発表。1999年11月のプロデビューから17年間にわたったプロボクシング人生に終止符を打ちました。

10度の防衛で名王者の名をほしいままにしたWBC世界バンタム級王者時代の長谷川でした。が、2010年4月、フェルナンド・モンティエル(メキシコ)戦に敗れて陥落。その後、2階級制覇となったWBC世界フェザー級王座を初防衛戦で手離したころ、そのとき30歳の年齢もあって、進退問題は、常に周辺につきまとうような状況にありました。

しかし、今年9月、ウーゴ・ルイス(メキシコ)からWBC世界スーパーバンタム級王座を奪取。35歳9カ月で5年半ぶりの戴冠、3階級制覇を達成させたこともあり、現役の世界王者のまま引退はもったいない、あの“長谷川流”をもう少し見たかった、という、引退を惜しむ声が、周囲から多く聞かれるのも仕方のないことでしょう。

引退の形について「高田型」か「船木型」か、というのがありました。

カッコ良すぎる王者のままの引退

高田延彦(キングダム=当時)vsヒクソン・グレイシー(ブラジル)戦のために総合格闘技リング「PRIDE」が立ち上げられ、1997年10月11日に「PRIDE-1」(東京ドーム)で行われた世紀の一戦は、高田の惨敗(1R4分47秒=腕ひしぎ逆十字固め)に終わりました。

リマッチは、1年後の1998年10月11日に「PRIDE-4」(東京ドーム)で行われ、高田はここでも惨敗を喫しています。

グレイシー柔術へのリベンジを期した高田は、2000年1月30日に「PRIDE-GP」(東京ドーム)の開幕戦でヒクソンの弟ホイス・グレイシー(ブラジル)と対戦。負ければ引退を公言していましたが、判定で敗れた後、引退を撤回。このリングにやり残したことがある、と、なりふり構わずに戦い続けることを選択しました。

一方、2000年5月26日に行われた「コロシアム2000」(東京ドーム)のリングでヒクソンと対戦した船木誠勝(パンクラス=当時)は、1R11分46秒、チョーク式裸締めで失神させられ完敗。試合後のリング上で引退を表明しました。

「まだやれるのに・・・」など、周囲の引退を惜しむ声に背を向け、船木は映画俳優に転身するなど、引き際の潔さ、カッコ良さを印象づけたものでした。

「格好悪すぎる」高田と「格好良すぎる」船木の進退の形-。

当時の格闘技ファンの若者たちは、様々な意見を口にしてかんかんがくがく。、カッコ良すぎるってのもネ~、高田? カッコ悪いのがカッコいいじゃん! など、ときを経てモノの価値観も多様化、男のケジメのつけ方も難しくなったものだ、と、オジさんたちは戸惑ったものでした。

引退会見の席上、長谷川は、こう語っています。

〈(試合か終わってから)やるのか、辞めるのか、ずっと考えてきた。ボロボロになって辞めるのもひとつの辞め方だけど、多少の余裕を残して辞めるのもひとつの辞め方かな、と・・・〉

長谷川の“引き際の美学”は、明らかに「船木型」でしょうね。長谷川には、勝って王者のまま、という、負けた船木とは立場が違いますが、共通項は「引き際の潔さ」です。

最初のころは、カウンターを狙う“待ちのボクサー”だった長谷川が、負けないボクシングで世界王者になってから、次第にKOを狙うボクシングで観客を楽しませるようになりました。

長谷川ファンをシビれさせたKOアーチストの引退は、彼らを「ズルいよ」と歯ぎしりさせる美学がありました。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

最新記事
カテゴリ
最新トラックバック
月別アーカイブ
最新コメント
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アクセスランキング
ランクアップにご協力下さい
↓↓↓↓クリック↓↓↓↓
QRコード
QR