深作作品の映画「道頓堀川」を観て

先日、映画愛好家たちが集まった例会(研修会)の新年初開催があり、上映された「道頓堀川」(1982年=昭57=6月公開、松竹)を観(み)てきました。

同作品は、宮本輝氏の同名小説を映画化したもので、深作欣二監督が宮本文学を松竹で撮った、という、いってみれば“未知の分野”に挑んだ、とされた注目作です。

映画はこんなシーンから始まりました。

美術系の大学に通う安岡“真田広之”邦彦が、道頓堀をスケッチしているとき、足を1本失(な)くした「小太郎」と名付けた犬を散歩させている、元芸者で今は小料理屋「梅の木」を営むまち子“松坂慶子”と出会い、言葉を交わします。

原作を読んでいる人々はまず、この冒頭のシーンで、アレレッ? となります。

私自身、宮本作品は好きで結構、読んでおり、この「道頓堀川」は、お気に入りの一つなのですが、原作での冒頭は、こう記述されています。

〈(略)邦彦は「リバー」の店先を掃きながら、三本足の犬を見ていた。バーや料理屋の密集する通りの真ん中を浮浪者が歩いていて、その影が犬のところまで伸びてくる。犬は、遅れてついてくるまち子姐さんの姿を認めると、安心したように宗右衛門町筋へと道を折れ・・・(略)〉

文中にある「リバー」は、邦彦が住み込みで働く喫茶店の店名です。

原作への“忠実性”を考えれば、絵筆を持たせようが、箒(ほうき)を持たせようが、特に状況に変わりはないシーン、変えなくても・・・と思いつつ、脚色性の許容範囲が頭の片隅をよぎります。ちなみに映画の脚本も、深作監督が手掛けています。

それは、話が進むにつれてどんどんふくらんでいきます。

脚色の許容範囲はどこまで?

道頓堀川が走る歓楽街にある喫茶店「リバー」のマスターで、かつてはビリヤード「スリークッション」の名手として鳴らし、戦後を生き抜いた劇的な過去を持つ武内“山崎努”鉄男と、ハスラーに憧れる息子の政夫“佐藤浩市”親子の葛藤、とともにそのネオンの地に生きるゲイボーイやストリッパーたち、男と女が、頼るものもなく、ひたすら生きる姿を、原作は淡々と描写します。

宮本イズムに惹かれるのは、こういうところですね。

が、映画の深作イズムは、ビリヤードの「スリークッション」を「ナインボール」に変えたり、戦後を生き抜いた武内のドラマチックな人生より、まち子と邦彦の恋愛模様を重視、2人が結ばれるシーンでは、まち子“松坂”の乳房が揺れる大胆シーンまで繰り広げられ、観る側の手に汗を握らせます。

映画の最初に、アレレッ? がありましたが、最後にまた、アレレッ? となります。

まち子と邦彦が、気持ちを確認し合って添い遂げ、まち子が夕食の支度をして邦彦の帰宅を待ちわびる夜、ネオン街ではゲイボーイのかおる“カルーセル麻紀”が裏切った幇間の石塚“柄本明”を包丁を持って追いかける修羅場が繰り広げられ、騒動の間に入った邦彦が刺されてしまうのです。

これも原作にはない場面・・・観る側にしてみれば、えっ、刺しちゃうの? とビックリし、生死の結末は描かれていませんが、死んだのなら、何も殺さなくても、というのが正直なところでしょう。

原作の宮本「道頓堀川」とは、大きくストーリーを変えた深作「道頓堀川」は、映画としては面白いものでした。

しかし、映画づくりに際しての〈原作への忠実性〉と映画を面白くするための〈脚色性〉との兼ね合いはどうなのだろうか、という疑問が残ります。

この日の例会には、この映画の製作に当たった織田明プロデューサーが出席していたので聞いてみました。

私「原作があり、それを映画化するにあたって脚本が書かれ、配役が決まれば、台詞もさまざまに変わり、原作とは異なる部分が出てくると思います。原作への忠実性と脚色性との兼ね合いをどうお考えですか?」

この兼ね合いは流動的で明確なものは決められませんでしたが、原作の活字を映画の映像に置き換えるとき、忠実性では折り合いがつかない場合がある、というのが関係者の見解でした。

宮本氏は、この作品に対し、さすがに最後の邦彦が刺されるシーンには抵抗があったそうですが、全体的には“面白いのでは”という感想を口にしたそうです。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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