“高み”に踏み込むプロの勇気に思うこと

今季限りで現役を退くことを表明した女子プロゴルファーの宮里藍(31=サントリー)は、会見の席上、その理由を聞かれて「モチベーションの維持が難しくなった」と答えました。

2006年から主戦場を米国に移し、途中、スイングをいじったことにより、深刻なスランプに陥った時期もありましたが、2009年7月の「エビアン・マスターズ」で復活を告げる米ツアー初優勝を飾りました。

翌2010年シーズンは、日本人選手初の世界ランク1位ともなり、年間5勝を挙げる大活躍を演じています。

それを挟んで2009年から2012年まで毎年、勝利を挙げながら、他方、宮里は「自分のゴルフがピークにあるという感覚を得ながら、メジャーに勝てないのは何故だろう? どうすればいいのだろう? と立ち止まり、自分を見失った」と振り返りました。

メジャーに勝てない。何故だろう。どうすればいいのだろうか。

宮里は、メジャーで勝つためにどんどん、自分を高みに押し上げ、こうあるべき、とつくりあげた理想の形と、しかし今は、その形に追いつけない自分との間で悩み続けていたのでしょう。

会見では「今までやれていた練習ができなかったり、トレーニングでも自分を追い込むことができず、自分が望んでいる形になれなかった」と語っています。

何という完璧主義だろう、と思います。とともに第一線に位置するプロというのは、ここまで自分で自分を厳しく律するのか、とも思います。失礼な言い方ながら、目指すものを落とせば、もっと楽に戦えるのに・・・そんな人は少なからずいるのになァ、とも思います。

2012年ロンドン五輪ボクシング(ミドル級)金メダリストのプロボクサー・村田諒太(31=帝拳)は、アッサン・エンダム(フランス)と戦ったWBA世界ミドル級王座決定戦で判定負けしました。

あるいは・・・「そこに山があるから」

不可解な採点による納得のいかない敗戦。周囲に村田への同情の声が渦巻きましたが、負けは負けと受け止めた村田は、試合後にこんな言葉を口にしました。

負けたから、もう一回頑張る、などと言えるほど簡単な日々を歩いてきたつもりはない

これも凄い言葉です。

五輪の、しかも、日本人選手には難しいミドル級の金メダリスト。それを背負ってプロの世界に入ることがどれだけ重圧のかかることか。負けるわけにはいかない状況下で一戦一戦、勝ち続けた村田は、やがて巡ってきた世界への挑戦に対し「勝てばオープニング、負ければエンディングかもしれない」と“覚悟”します。

それは、プロボクサーの誰もが直面している、この競技はひとつの勝敗が人生をも分けてしまう、という過酷さを究極のところまで高めた覚悟であり、だから「負けたから、もう一回・・・」の言葉が口をついたのでしょう。

今は日本の総合格闘家もどんどん、米総合格闘技リング「UFC」に登場するようになっています。

が、ここに最初に上がった日本人格闘家の覚悟はどうだったのでしょうか。

1993年11月に発足した「UFC」の第2回大会(1994年3月=米コロラド州デンバー)-。

初期のころは、極めて暴力的だったこの金網リングに出撃した初の日本人選手が、大道塾の空手家・市原海樹(みのき)でした。

この勇敢なサムライに思うことは、今でこそ普通に「アルティメット」とか「バーリ・トゥード」とか使われているものの、当時の日本では、まだよく理解されていなかった時代になぜ、それに向かったのだろうか、ということです。

市原とオクタゴンの橋渡し役となった作家の夢枕獏氏は、そのリポートでこう記述しています。

試合前の恐怖感が大きければ大きいほど、その領域に踏み込むための門は狭くなり、領域の頂きは高みを増していく。人は他人によって選ばれるのではない。自らが自らを選ぶのである。市原は既にそういう領域に足を踏み入れていた

と-。

宮里藍にしても村田諒太にしても、あるいは市原海樹にしても、退路を断って自らの意志で自らを高みに押し上げ、その狭き領域に踏み込んだ末の葛藤(かっとう)と戦い続けたのでしょう。

その勇気、その前進、には脱帽です。そして・・・その結果に対して他人が軽々しく声を掛けられないような気もします。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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