「そんな男の妻の宿命ですね」

ちょっと前のことですが、テレビの「NHK総合」で面白い短編ドキュメンタリー番組が放映されました。

辰吉家の常識 世間の非常識」(1月7日午後3時50分から25分間)がそれです。

同日の放送は昨年12月28日に放映されたものの再放送でしたが、プロボクシング元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎(47)の、いまだに世界をあきらめない“往生際の悪さ”と“わがまま”をすべて受け止めながら、私はそんな男の妻、そんな男の妻の宿命、と見守る姉さん女房・るみ夫人(51)の日常を、2人が交わす会話を軸に描いたものでした。

偶然のことでしたが、私は昨年末のボクシング取材の現場で、Dスポーツ新聞の女性記者Fとの雑談中に辰吉の話が出て、大阪を拠点に活動するF記者は、辰吉の全盛時から密着しており、彼女は、やっぱり凄いのはるみさんですよ、今の辰吉は収入ゼロですからね、と話しました。

そんな流れがあってこの日の番組-。

振り返って辰吉は、1999年8年29日、ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)に奪われたWBC世界バンタム級王座を取り返し行って惨敗。翌30日に引退を発表します。

が、それから約3年を経て再起を宣言。2002年12月15日にセーン・ソー・プルンチット(タイ)との復帰戦(7回TKO勝ち)が決まりました。

私自身は、その試合の前、2002年11月、大阪帝拳ジムに辰吉を訪ね、再起戦を行う“なぜ?”を取材した際、辰吉はこう言いいました。

天才の行く末を支える姉さん女房の男気

〈ファンに見せるものは何もない。ボクシング界を盛り上げようとか、ファンのためとか、そういうものはない。自分のためにやるんやから・・・〉

〈ボクがプロなんちゅう言葉を使ったら失礼や。ボクにとってボクシングは職業やない。趣味やね。要するにわがままなんやね〉

プロデビューから4戦目で日本王者。8戦目で世界王者。「負けたら引退」など強気の発言でプロ意識の塊のようだった男が、このとき、こうした言葉を口にしていました。

テレビの中で辰吉とるみ夫人は、まるで漫才のようなやりとりを繰り返し、テレビのカメラは、それを忠実に映していきます。

夫婦ゲンカ? 若いときは毎日やったな、と辰吉 。「80戦全勝、80KOで私の勝ちや」とるみ夫人。今? やるか? 「勝ち目ない」と目ジリを下げて情けない顔の辰吉・・・。

そんな夫は、プロボクサーの「37歳定年制」に背を向け、あくまで現役にこだわって日々、練習を続ける。わがまま健在。が、2009年3月のサーカイ・ジョッキージム(タイ)=辰吉の7回TKO負け=以降、リングに上がっていない。従って“無収入”状態-。

るみ夫人が言います。

〈私の仕事はね、彼が出掛けるとき「行ってらっしゃい」といい、帰った来たとき「お帰りなさい」ということですね〉

無収入ゆえに貯えを切り崩しながら現役続行にこだわる日々。

目標もないのに真剣に練習に取り組む姿。それがあの人のすべて。あの人の正義なのでしょうね

かつての天才をもう、誰も振り返らない日常・・・。世間から見れば“非常識”の数々も、辰吉家では、それが“常識”-。

全盛時の強さ・凄さを知る者は、それゆえに今の呂律(ろれつ)が回らないパンチドランカー状態をも強かったことの証と受け止めますが、全盛時の強さ・凄さを知らない者は、いまだにあがくプロボクサーの末路と“非常識”ぶりにあきれてしまうかもしれません。

NHKの映像は、その判断を観(み)る側に委ね、余計な解説を抜きに2人の会話、表情によってユニークな夫婦の形を映し出していました。

久々に観た秀逸な短編ドキュメンタリーでした。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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