独善的男乃着物考其ノ拾壱

寄席などに行きますと、高座で熱演中の落語家が、話の途中でさりげなく羽織の紐(ひも)を解き、羽織を両肩からスルリと落とす動作がよく見られます。

「粋だねェ~」と、この仕草(しぐさ)にシビれる着物好きは結構、多いものです。

男の和装における羽織は、洋装でいうならジャケット、と言われます。ジャケットではありませんが、アクション映画などで無敵のヒーローが、襟(えり)を立てたトレンチコートの袖に腕を通さず、両肩にかけていたりする姿をよく見ますが、何かそのあたりと似かよっているような気もします。

「着流し」は着物に帯だけのラフな姿ですが、それに羽織を羽織る(羽織の場合はやはり“着る”というより“羽織る”ですね)ことであらたまった面が出てきます。まあ、洋装でいうなら、シャツの上にジャケットを着る、あるいはブレザーを着る、という感覚でしょうか。そう考えると、羽織の存在は結構、大きいものとなってきます。

さて、羽織を羽織った場合、それを(人前で)脱ぐとき、高座での落語家たちのように“粋”な仕草で行うためには、一つの条件が出てきます。そうです。「羽織紐」の問題ですね。

羽織紐は、大まかに分けて2種類があります。

羽織ひも
(上が「平打ち」のノーマルな羽織紐。下が「無双」タイプの羽織紐)

一つは左右2本に分かれた本来のもので、羽織紐の先端についている輪の部分(「坪」と言います)を羽織の衿(えり)の部分についている輪の部分(「乳」と言います)に直付けするタイプのもの。もう一つは1本になっていて、先端についている「S字鐶」を乳に引っ掛けるタイプのものです。

前者には、紐が平らになっている「平打ち」や、紐が丸くなっている「丸打ち」があり、いずれもフォーマル色が強くなっています。「無双」と呼ばれる後者は、真ん中に石などの装飾がつけられるなどカジュアル感、遊び感覚が優先されています。

そして・・・です。羽織をスルリと滑らせて下に落とす粋な脱ぎ方をする条件としては、まず最初に、そこに至る前に、羽織紐がノーマルな直付けタイプでなければならない、ということです。

なぜ? ですか。だってそうでしょう? 「無双」タイプのものでは、左右どちらか片方の先端をうまく羽織の乳から外したとしても(経験から言わせてもらうと“うまく”は外せません)もう片方にダラリとぶら下がった状態では、粋もへったくれもあったものではありませんね。

とはいえ、そうしたことを考えなければ、無双タイプの羽織紐は、なかなか魅力的です。男の着物は概して、全体的に地味ではありますし、体の正面に位置する羽織紐にシャレた石などがついていると、フ~ン、いいねェ、などと、お褒めに預かることも多いものです。

時折、着物を着たがる私の友人は、なぜか羽織が嫌いで、いつも着流し姿です。ある冬の日など、足袋も履かずに素足に雪駄、のときもあり、おいおい、それじゃ、昭和残侠伝! と笑い話になりましたが、まあ、それはそれで個人の個性でもあり結構、魅力的であります。

同様に羽織の紐をどうするか、の問題は、単純に好みの問題であり、別に“ああだこうだ”の問題ではありませんが、独善(ひとりよがり)的に言わせてもらえば、外出先で脱ぐことが予定されるようなときは、羽織紐は無双タイプは避け、スッとさりげなく羽織紐を解くという動作において、本来の直付けタイプにした方がスマートでいいのでは、と思います。

(注=「独善的男乃着物考」シリーズは「日常」の項に収めています)
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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