目には見えない心理の怖さ

その瞬間、誰もが言葉を失っていたのではないか、と思います。最終18番(パー5)グリーン上。通算10アンダーで単独トップに立った金寅敬=キム・インキョン=(24=韓国)が、これを入れれば優勝が決まる30センチのパーパットを何と! 外してしまったのです。

USLPGAツアーの今季メジャー第1戦「クラフト・ナビスコ選手権」(4月1日=日本時間同2日=最終日、米カリフォルニア州ランチョミラージュ・ミッションヒルズCC)は、メジャー競技の重圧とメンタル・ゲームのゴルフの、目には見えない心理の怖さを、最後の最後に見せつけた大会となりました。

一時は首位タイに4人が並ぶ混戦から抜け出したのは、17番(パー3)で約10メートルのバーディーパットを沈めてスコアを通算10アンダーとした金でした。

金は最後の18番、3オンの後、第1パットを丁寧に30センチに寄せ、それを見守る誰もが・・・生中継してくれているWOWOWの画面を見ている多くのファンを含めて、恐らく99・9%までが、金のメジャー初制覇は決まり! と思っていたことでしょう。

その結末は、しかし、金がこの30センチを外し、通算9アンダーで並んだ柳先暎=ユ・スンヨン=(25=韓国)とのプレーオフに敗れるという、悔やんでも悔やみきれない痛恨事を生んでしまうのですが、17番で10メートルを決めて歓喜の金が、その直後、18番で最も大事な30センチを外して呆(ぼう)然と立ち尽くしてしまう悲喜に、ゴルフというゲームの“意地の悪さ”をつくづく感じてしまいます。

30センチ外して30万ドルが消えた!

例えば私たち“月イチ”のダッファーでも、スタート前の練習グリーンで、30センチのパットなど、仲間と談笑しながら、ろくに構えもせずに片手でポイと入れてしまうことなどしばしばでしょう。

そんな距離をなぜ? 熱戦の舞台となっている、いかにも米国らしい“スタジアム・コース”のミッションヒルズCCダイナショア・コースは、最終18番、選手にとっては、あるいは集中が難しいセッティングになっていることを感じます。

つまり、池に囲まれたグリーンは、そこに向かう途中の通路が観覧席の前にあり、選手はギャラリーの大歓声に何らかの形で応えざるを得ない状況に置かれるからです。

金で言うなら、3オンに成功し、2パットで優勝が決まるとあれば、すでに気持ちは優勝に向かっており、加えてこの大ギャラリーの声援を受けてグリーン向かうとき、パットをせずして心理的にはもう、終わった状態が出来上がってしまっていたかもしれません。

ショートパットを外す悲劇は、結構多く見られるものです。国内女子ツアーでも、ざっと記憶に残しているところでは、08年3月の「ヨコハマタイヤPRGAレディース」(高知・土佐CC)で最終18番、横峯さくらが50センチのパーパットを外してプレーオフに持ちこまれて敗れたり、昨年6月の「ニチレイ・レディース」(千葉・袖ヶ浦CC新袖コース)で途中、トップに立っていた佐伯三貴が60センチを外して優勝のチャンスを逃したりしたことが思い浮かびます。

専門家に言わせれば、ショートパットは、いろいろな要素が入り込む1メートル前後が、もっとも難しいのだそうですが、それ以内の距離はまず、パターのフェースが目標にスクエアなこと、それを最後まで維持できるストロークが出来れば、さほど難しいことなしに必ず入る、とのことでした。

30センチに対峙(たいじ)した金の頭の中には、それを入れることより、既に入った後のことの方が多く、ウエートを占めていたのではないかと思います。

本当に悔やみきれない出来事だったでしょう。強すぎる韓国勢は、日ごろは“憎き!”ではありますが、今回は金に同情したい気持ちです。これもゴルフ・・・と落ち込まず、一日も早く、精神的に立ち直ってもらいたいものです。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

最新記事
カテゴリ
最新トラックバック
月別アーカイブ
最新コメント
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アクセスランキング
ランクアップにご協力下さい
↓↓↓↓クリック↓↓↓↓
QRコード
QR