八重樫東! 君に「心のベルト」を!

ともにプライドを懸け、背負うものを叩きつけ合うと、こういう凄い試合になるのでしょう。6月20日夜、大阪・ボディメーカーコロシアム(大阪府立体育会館)で行われたプロボクシングWBC&WBA世界ミニマム級王座統一戦、WBC王者・井岡一翔(23=井岡)対WBA王者・八重樫東(29=大橋)の激突です。

TBS系が当日午後7時から生中継(午後8時19分ゴング)したテレビ視聴率は、平均が関東地区18・2%、関西地区22・3%、瞬間最高は関東地区22・7%、関西地区29・1%(ビデオリサーチ調べ)となり、多くの人たちが、この試合に注目しており、そして、内容の凄さにうなったことだと思います。

最後まで見る側に手に汗を握らせた殴り合いは、3-0の判定(ジャッジの2人が115-113、1人が115-114)で井岡の勝利となりました。が、その差は、どこにあったか? を振り返ってみると、これといった明確なものはなく、強いて挙げるなら初回、井岡の右を受けた八重樫の左目上が腫れ、3回には左ジャブで右目上も腫れ、それが最後には痛々しく腫れあがっていた、というところでしょうか。

その差はどこにあったか?

スポニチ本紙の世界戦評論でおなじみの元世界王者・浜田剛史氏(帝拳プロモーション代表)が言いました。

〈井岡が3発を当て、八重樫が2発を返した場合、八重樫の1発には、相手をぐらつかせる威力があり、パンチの有効度において明確な差をつけられなかった〉

つまり王者同士、最後まで引かない五分五分の戦いを展開させた中、八重樫の不運は、早い回から顔が腫れ、試合途中、計3回のメディカル・チェックが、微妙に採点に響いていたのかもしれません。

戦前、2人は「エリート(井岡)vs雑草(八重樫)」と比較され、また「主役は井岡」という“井岡上位”の図式が出来上がっていました。

井岡が所属する井岡ジムの井岡弘樹会長は、WBC世界ストロー級&WBA世界ジュニアフライ級の元2階級制覇王者で叔父にあたり、父親の一法氏はトレーナーを務めるサラブレッド。高校時代(大阪・興国高)に高校6冠達成。プロ入り後は、7戦目という国内最速記録で世界王座を奪取しています。

対する八重樫は、井岡に先駆けて07年6月、プロ7戦目でWBC世界ミニマム級王者・イーグル京和(角海老宝石=当時)に挑みますが判定負け。このとき2回、王者の頭があごに当たり、左右両側を骨折、試合後の診察で全治6カ月と診断され、同年を棒に振ってしまいます。

挫折から這い上がった“雑草”の凄み

若さと勢いでアッという間に頂点に上り詰めた井岡に対し、挫折から再起し2度目の世界挑戦(昨年10月)で王座を奪取した苦労人の八重樫を比較すれば、どうしても八重樫は“脇役”となってしまうのでしょう。

あごの骨折というと、忘れられないのが1989年10月14日、高橋ナオト(本名・直人)が持つ日本ジュニアフェザー級(階級は当時)王座に挑戦した打越秀樹(後に昌弘に改名=帝拳)が、高橋の強い右ストレートであごを砕かれ、6回TKO負けした出来事です。

試合後に救急車で病院に運ばれ、延々6時間半に及ぶ手術、金属プレートとボルトだらけのあごで1カ月半の入院生活を余儀なくされた打越は、悩み、迷った末に再起しますが、決意の際、自分に言い聞かせたことは「将来、結婚して生まれてくる子供に“オレはこれだけやったんだぞ”というために、ここでくじけるわけにはいかなかった」でした。

恐らく八重樫にも逡巡はあったことでしょう。世界初挑戦の痛い負けから、ブランクを経て10カ月後に再起、2度目の世界挑戦の一年前、10年10月に結婚し、今は彩夫人と1男1女の家庭を築き「家族がいたからここまで来ることができた」と口にしています。

凄い戦いで井岡が日本人初となる2団体統一の王座を獲得できたのは、一方、八重樫の凄さ、すべてを出し切った“折れない心”があったからでしょう。

終わって見れば“主役”も“脇役”もない、ボクシングという世界に生きる男たちの、採点などでは判断できない純粋な戦いだけがそこにあり、それが見る側に感動を与えた試合でした。

八重樫には、こう言いたい気持ちです。

〈君には「心のベルト」を巻いていてもらいたい!〉と-。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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