消え行くものへの郷愁

着物好きの私は、10月のいい季節となって時折、和服で飲み処(どころ)などに出かけ、一人悦に入ったりしています。

この欄にも随時、和服についてシロウトなりに気がついたことを「独善的男乃着物考」として連載(「日常」の項に収めています)していますが、なぜ着物なのか? を考えると、最初にまず、理屈なしに①好きだから・・・があり、次に②日本男児的“硬派”の心意気! と続き、そしてこれが一番大切なことかもしれませんが③消え行くものへの郷愁、という、切ない心情があります。

今どき、男の着物姿などは、街中でまず、見かけませんが、同様に“消え行くものへの郷愁”を探し出すと、長きにわたって庶民の娯楽を支えた街中の映画館もそのひとつだなァ、と思います。

浅草(東京・台東区)に残っていた最後の映画館3館が10月21日、すべて閉館したことが報じられました。私が住む藤沢市(神奈川県)でも、これまで複数あった映画館が、ここ数年のうちに次々に閉館となりました。そのうちの一つは、胸中にまだ、思い出深いものがあり、閉館となったときは、本当に寂しさを覚えたものでした。

というのも、母親が映画好きだったこともあって、幼年時の私は、母親にしてみれば、一人で留守番させておく、というわけにもいかず、しばしば母親の趣味に無理やりつき合わされ、映画館通いをして(させられて)いました。

映画史をひもとくと、日本映画が“娯楽の王様”として君臨、全盛を誇ったのは昭和30年(1955年)前後だった、とあり、その年代、私はまだ、小学生(高学年)でしたが、確かに母親に連れられて行く映画館は、いつも満員で席に座った覚えなどなく、私などは大人たちの脚の間から、スクリーンをかすかに覗き見ていたことが記憶の奥底にあります。

そんな日々にあって唯一、自分から観(み)に行きたい、と足踏みしてねだったのが「新諸国物語~紅孔雀」のシリーズでした。

「新諸国物語」は北村寿夫原作の小説ですが、その一作の「紅孔雀」は、1954年(昭29)にラジオドラマ化され、NHKラジオ第一放送で放送されました。

「紅孔雀」の熱狂を原点として・・・

それを東映が萩原遼監督で映画化。1955年(昭30)の正月映画として公開して以降、数編に及ぶシリーズは毎週、続きものの形で公開され、藤沢市内の映画館でも、次を待ち望む人々で長蛇の行列が出来るほどの大ヒットを遂げました。

当時の映画館内の様子を思い浮かべると、2階席までギッシリと埋まった超満員の観客は、立ち見は当たり前の、まさに“鈴なり”の様相。中村=当時=錦之助(那智の小四郎)と高千穂ひずる(久美)のヒーロー&ヒロインがピンチの際に駆けつける大友柳太郎(主水)の勇姿に拍手喝采! 早く早く! と大合唱が起きるほどの熱狂でした。

映画館内での、この種の手に汗握る興奮は、この「紅孔雀」以後、恐らく味わったことがないのではないか、と思われます。それほど、この年代、皆が映画を楽しみ、熱中していた時代だった、ということなのでしょう。

だから・・・その映画館が消えた日は、一つの時代の終焉を思わざるを得ず、栄枯盛衰という世の習い、無常の非情さをつくづく、感じたものでした。

最近、映画を観(み)る機会が増えています。といっても、細々と・・・といったイメージは拭えない街中の小規模映画館に代わって台頭した「シネコン」(シネマコンプレックス=複合型大規模映画館)に足を運ぶわけではなく、もっぱら、図書館などで開催される無料&先着順ものを、映画好きの友人たちと、あ~だこ~だと言いながら楽しむ形です。

こうしたところで上映される映画は、たいてい“小津(安二郎監督=松竹)もの”など、日本映画史に残る名作、と評価されている作品です。会場に足を運ぶ人たちも当然、高齢者が中心となり、昭和に生きる人々と家族の哀歓、人間模様を淡々と描き、しかし、このスローテンポでノンビリと、2時間を超えてはたまらないなァ、などとつい、批判的にもなってしまう小津作品を堪能させてもらうわけです。

「シネコン」が、シャープなデジタル、さらに迫力満点の3D映像で、先鋭的に若者層の感覚を刺激するなら、いかにもアナログ的な単館映画館は、もはや「紅孔雀」に熱狂した世代が、ノスタルジーに浸る場と化すのでしょうか。

消え行くものへの郷愁は、かつて栄華を誇ったことを知っているからこそ、強く感じるものです。

その意味では、お役目を果たし“ご苦労さま”でしょう。私たちは、その栄光を知っていますよ。そう、手洗いの臭いと紫煙が充満する中で皆、食い入るようにスクリーンを見つめていた時代を・・・。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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