プロボクサー・西岡利晃の引退に思うこと

その“流れ”にはありましたが、決断を本人が口にするまでには、さまざまな逡巡があったことでしょう。

10月13日(日本時間同14日)に米カリフォルニア州カーソンで行われたノニト・ドネア(フィリピン)とのスーパーファイト、プロボクシングWBC&WBO世界スーパーバンタム級王座統一戦(西岡の9回TKO負け)から1カ月後の11月13日、WBC世界スーパーバンタム級名誉王者(終身)の西岡利晃(36=帝拳)が引退を発表しました。

引退会見の席上、西岡は凄みのある言葉を口にします。

〈ドネア以外の相手なら、今でもチャンピオンになれる自信はある。だが、それ以外の他の選手と戦っても、ドネア戦以上の感動も喜びも持てない〉

1人のプロボクサーとして「ドネアという高み」に立ち向かい、そこで燃え尽き、自分にケジメをつけた西岡の姿に“ある格闘家”の生きざまがダブりました。そう、大道塾の空手家、伝説の市原海樹(みのき)です。

日本の格闘技ファンには、WOWOWの中継でおなじみの米格闘技リング「UFC」ですが、今、周辺の環境がしっかり整備されて人気絶頂のこのリングも、さかのぼること1993年11月12日、米コロラド州デンバーで行われた、まだ整備が不十分のままスタートした第1回大会は、ヴァーリ・トゥード(ポルトガル語で「何でもあり」)という過激なルールのもと、暴力とは紙一重の凄惨な内容となったようです。

その第2回大会(1994年3月11日=米コロラド州デンバー)に日本人として初めて乗り込んだのが市原でした。結果は1回戦、グレイシー柔術のホイス・グレイシー(ブラジル)と戦い、締め技で一本負けとなりましたが、勝負はともかく、市原という空手家への興味は、まだ日本では、アルティメット(総合格闘技)とかヴァーリ・トゥードとかいう言葉が、一部にしか理解できていなかった時代、なぜそこに向かったのだろうか、ということでした。

ドネアという高みに踏み込んだ完全燃焼

市原とオクタゴン(UFCの金網に囲まれた8角形のリング)を結ぶ“橋渡し役”となった作家の夢枕獏氏は、そのリポートでこう記述しています。

〈試合前の恐怖感が大きければ大きいほど、その領域に踏み込むための門は狭くなり、領域の頂(いただき)は高みを増していく。人は他人によって選ばれるのではない。市原はすでに、そういう領域に足を踏み入れていた〉

西岡は過去、4度の世界挑戦に失敗。その後、練習中にアキレス腱(けん)を断裂するなどのアクシデントに見舞われ、引退危機に追い込まれる状況にも直面しました。が、挫折を乗り越えて08年9月に戴冠してからは、メキシコ、ラスベガス(米ネバダ州)と2度にわたる海外防衛を含めてV7達成。そこにドネアと戦うチャンスが訪れて、西岡の胸中は、夢枕氏の言葉を借りれば「西岡はすでに、そういう領域に足を踏み入れていた」のだと思います。

ボクサーの引退(もちろん他のスポーツ選手にも共通することですが・・・)に関して元世界王者の浜田剛史氏はこう言います。

〈悔いを残しているかいないか、が、ひとつのモノサシになりますね。敗れた選手が、力を出し切ったと納得できるものなら“仕方ない”となり、出せなかった不満が残れば“もう一丁”になると思います〉

長い間、多くのボクサーの悲喜こもごもを目にしてきた、帝拳ジムのマネジャーを務める長野ハルさんはこう言いました。

〈負けたとき、負けた理由が分かって、それが希望につながるなら再起するでしょう。つながらなければ“これで終わり”となるのだと思います〉


西岡の場合は、ある意味、こうした“線引き”を超えたところで、身を引く決断に至っていると思われます。

つまり、西岡は、自分の意志でドネアという高み、狭い頂に足を踏み込み、そこでの結果がどうであろうと、現時点で“これ以上はない”というところに立ったのだと思います。

西岡の試合から、勇気や頑張りをもらったファンは多いと思います。西岡には、本当にご苦労さま! そしてこれから、自身のジムで第2、第3の西岡を育成させてくれることを楽しみにしています。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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