パッキャオ報道の裏にあるものは?

あれからどうしているのだろうか。
再びリングに立つ日は来るのだろうか。

・・・などと“その後”の動向が時折、気になったりしていましたが、そんなとき、NHK総合テレビがタイミング良くやってくれました。1月27日の日曜日夜に放送されたNHKスペシャル「“世界最強”の伝説~ラスベガス世紀の一戦」(午後9時~)です。

そうです。その内容は、プロボクシングの元6階級制覇王者マニー・パッキャオ(34=フィリピン)が衝撃的なKO負けを喫した昨年12月8日の、4階級制覇王者ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)戦の背景をルポしながら、ラスベガス(MGMグランドホテル=米ネバダ州)を舞台に行われた、この「2800万ドル(約23億円)マッチ」を追跡したものでした。

画面には、めったに素顔を見せないボブ・アラム氏(81)が大写しで登場しました。しかも、映像は、ラスベガス郊外の高級住宅地に建つ自宅の中までも・・・。

アラム氏は、プロボクシングのプロモート会社「トップランク社」を主宰する辣(らつ)腕プロモーターですが、ヘビー級を中心としたプロモーターで知られるドン・キング氏をライバルとして張り合い、弁護士資格を持つ知的プロモーターのアラム氏は、シユガー・レイ・レナード(米国)らのプロモートでヘビー級全盛の米国に中量級の波を起こし一時代を築きました。

「マニー(パッキャオ)の次は誰だ」-。パッキャオを擁するアラム氏は、昨年6月のティモシー・ブラッドリー(米国)戦に“不可解な判定”で敗れたパッキャオの次戦の相手に悩みます。再起戦となるだけに難しい選択。そこで4度目のマルケス戦が浮上したのは、過去3度の対戦(パッキャオの2勝1分)に話題となるストーリー性があること、決定的な決め手は、いまや米国のドル箱は「ヒスパニック人気だ!」であり、お互いに負けられない因縁のカード、今度こそKO決着しかない“危険な”対戦が最終決定しました。

ここまでは、観客の興味をいかに引くか、というプロモーター側の苦悩。一方、映像は一転、パッキャオの故郷ミンダナオ島に移り「俺たちは闘鶏のニワトリにすぎない」と、戦う側の苦悩を浮き彫りにしたパッキャオが苦い汗を流します。

そろそろ、のしかかり始めた年齢の重さ。さらに体重差を度外視した6階級制覇のツケが、試合中に足が痙攣する、という下半身に出始めてもいます。明らかにピークから下降線をたどり始めた希代のスーパースターの現状、スタッフの不安・・・。

「俺たちは闘鶏のニワトリにすぎない」が・・・

そして、その日-。

好調な滑り出しを見せたパッキャオは、3回に右ロングフックを浴びてダウンを喫しますが、5回にお返しのダウンを奪い、忍び寄る“魔の6回”など予想もせず、いつにない調子のよさに気持ちを高ぶらせます。

映像は、顔から前のめりに崩れ落ちるパッキャオの姿を痛々しく、何度も何度も、映し続けていました。6回終盤、攻め込んだ瞬間に突き刺さったマルケスの右カウンター。これがパッキャオか! 駆け寄った幼馴染みのトレーナーは「死ななくて良かった」と、血みどろで息絶える闘鶏の、負けたニワトリの悲惨な姿を一瞬、思い浮かべたようでした。

“ラスベガス世紀の一戦”-。この壮絶な勝負の代償は、8500万ドル(約76億円)を売り上げたペイ・パー・ビューの売り上げだった、とナレーターは淡々と伝えていました。

仕掛けたアラム氏の勝利。が、パッキャオに次はあるか。

敗戦を背負って故郷に帰るパッキャオ一行を途中、人々が拍手で出迎えました。米国に“出稼ぎ”に行った我らが英雄の帰郷。パッキャオは自費で学校を建て、公民館もつくり、荒れた道も整備し、ミンダナオ島では「国民のコブシ」と呼ばれているとのことでした。

「負けた俺を・・・」。人々の拍手を受け、笑顔に囲まれながら、パッキャオがつぶやきました。

〈これまでオレが国を背負っていると思っていた。が、実は支えられていたんだ、ということが今、分かった。俺はまだまだ戦える〉と-。

この番組を企画・制作したNHKの意図はどこに? と考えました。壮絶な敗北を喫したパッキャオの“その後”は、私を含めて誰もが関心を持つところです。しかし、誰もが・・・といったところで、それは「ボクシングを知るもの」に限られることでしょう。

例えば、西岡利晃(帝拳=引退)が、ラスベガスの舞台でパッキャオの後継者と謳われるノニト・ドネア(フィリピン)と戦ったとき、西岡の名前はかろうじて知っていても、ドネアとなると知らない人は、かなり多かったのでは? という印象を受けました。つまり、知名度の問題、です。

ボクシングの世界での出来事であっても、そのジャンルを超えた出来事、つまり、人の素晴らしさ、やってのけたことの素晴らしさ、があったとき、それは多くの人々に“認知”してもらいたいと思います。

マス・メディアはそれを知らせる役割があり、NHKのこの企画がもし、そこまでを意図していたとしたら、大いに共感を覚えるところです。
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あれはよかった

格闘技には全く興味のない私ですが、このドキュメンタリーは秀逸でした。テレビつけたらたまたまやっていて、格闘技は嫌いだからチャンネル変えようと思ったのですが、プロモーターのコメントが余りにも正直で格闘技がいかに金の卵か、このビジネスを支えているのは白人ではなくヒスパニックだと喝破したのを見て、後は一気に引き込まれました。
人間はいかに生きるのか、何を拠り所に生きるべきか、一見派手なようでリングの下は地獄という興行スポーツの特徴を最大限上手く活かした良質番組です。見るべし
プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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