映画「魚影の群れ」を観て・・・

男は意地を抱いて、鉛色の雲が低く垂れ込めた北の海で息絶え、帰りを待ちわびた女は悲しみを抱いて、悲痛な叫びを北の海に投げかけた-。

シネマテーク茅ヶ崎の福田浩三氏が主宰する「第16回湘南映画上映会」(9月8日開催=神奈川県茅ヶ崎市・市立図書館本館)での上映作品は、吉村昭原作の松竹映画「魚影の群れ」(相米=そうまい=慎二監督、1983年10月公開)でした。

茅ヶ崎市在住の例の映画好きの友人と足を運び、上映時間2時間15分の、この見応えのある長編力作を、135分を感じさせずに堪能させてもらいました。終映後は、尾を引く余韻に友人ともども“ウ~ン”とうなるだけで言葉もすぐに出ないありさまでしたが、1983年(昭58)の初公開から30年を経た今でも色褪せず、観(み)るものをグイグイと引き込むのは、緒形拳、夏目雅子、佐藤浩一ら俳優陣の濃さ、それを生かす相米監督独特の「長回し」によるド迫力、によるものと言えたでしょうか。

舞台は本州の最北端・下北半島の大間です。そこの海でマグロ漁に生きる一徹者の小浜房次郎(緒形拳)は、ある日突然、ひとり娘のトキ子(夏目雅子)から、町で喫茶店を営む依田俊一(佐藤浩一)と結婚したい旨を告げられます。俊一は、トキ子と結婚するために房次郎同様のマグロ漁師を志願しますが、過酷な大間の海でひとり、船を操り、テグスで両掌を血みどろにしながら一本釣りに命を懸けてきた房次郎は、そんなに甘いものではない、と俊一を無視。物語は父親と娘、婚約者の青年と三つ巴の人間ドラマを繰り広げていきます。

今回、この上映会には、同映画の製作に携わったプロデューサーの織田明氏が、ゲストとして参加しました。同氏は、1928年(昭3)の生まれ、といいますから、もう85歳なのですが、若々しく、トークも的確で“さすが”の印象でした。

「魚影・・・」に関するさまざまな思い出話が明らかにされる中、圧巻はやはり、緒形“房次郎”のマグロと格闘する場面にあり、織田氏は「緒形さんはすべてを自分でやり遂げた」と振り返り、その一挙手一投足は「ホンモノの大間の漁師さんを“俺たち以上だ”と驚かせた」ものだったそうです。

また、映画製作にあたり、全スタッフが下北半島に泊まり込み、すべてをロケでやり遂げたとのことでしたが、期間中、緒形も夏目も、また佐藤も土地にとけ込み、方言もすっかり身についてしまったそうです。

本物を超えた緒形拳のマグロ漁師役

しかし、その、すっかり身についてしまった方言、が思わぬところで「聞き取れなくなった」ところもあった、と苦笑いでした。

ある日、自らの船となった「第一登喜丸」で漁に出た俊一が消息を絶ってしまいます。いてもたってもいられず、トキ子は意を決して、房次郎に捜索を依頼します。そのシーン。ゴロリと横になっていた房次郎が立ち上がり、オイ! と声を発します。瞬間、立ち上がり、トキ子は無言のまま、房次郎のズボンを持ち出して自らの手ではかせ、いつもの赤いトックリのセーター、頭に巻く赤いタオルなど、かいがいしく漁に出る一式を差し出します。

この場面は印象的でした。ああ、留守宅を守る大間の漁師の女房(この場合は娘ですが・・・)たるもの、こうして亭主を海に送り出すものなのか、と妙に感心してしまう、夏目の板についた、流れるような所作でした。

第三登喜丸を駆って捜索に乗り出した房次郎は、やがて第一登喜丸を発見、そこでマグロと格闘する俊一を目撃します。

が、俊一の体は、昼夜に及ぶマグロとの死闘で骨が折れ、内臓も破壊するほどの大怪我を負っており、それでも離そうとしないテグスを房次郎は切ろうとします。切るな! 切らないでくれ! 俊一の懇願。それは今、やっとなれた大間のマグロ漁師としての意地! それを感じて心を通わせた房次郎は、曳航していた自らの命でもある第三登喜丸を切り離して帰港を急ぎます。が、途中、俊一は息を引き取りました。

漁港で待機していたトキ子は、房次郎からの無線で最悪の事態を知り、海に向かって叫びました。
「○×▼□!」
これは絶対に聞き逃せない言葉ですが、どうにも方言がきつくて分かりません。

ここは友人が織田氏に聞きました。あの大事な場面、トキ子は何と?

織田氏によると「分かネ~じゃ!」と言ったのだそうです。つまり、男たちが命と引き換えに選ぶのは、マグロなのか、自分のおなかに中にいる子供なのか、男の考えることは分からん! という絶望的な女心なのでした。

それにしても緒形拳さんも夏目雅子さんも今は亡き人。2人の名演技が感動ものだったことを思えば、つくづく残念なことです。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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