球が止まって見えた!

“打撃の神様”と呼ばれてプロ野球界で活躍した川上哲治氏の死去が、10月31日付の新聞各紙で伝えられました。

同氏は10月28日午後、老衰のために東京・稲城市の病院で死去(享年93)したとのことでしたが、巨人監督時代に成し遂げた不滅のV9達成など球史に残る偉業の数々の中、多くの人々の記憶に強く残っているのが「球が止まって見えた」という言葉ではないでしょうか。

スポニチ本紙によると、それは1950年(昭25)7月、多摩川グラウンドでの練習中につかんだ感触だった、とのことでした。それを同氏は、後に日本シリーズで戦った元西鉄の豊田泰光氏に「ウソじゃない。でも、その時期は長くは続かなかった」と明かした、と報じています。

1950年と言えば、私自身、まだ幼年時であり、この名言はその後、誰かから聞いたか、何かの本で読んだか、などして記憶に残したのだと思いますが、実感としては当時、そんなこと? とそれほどなかったものが、そういうことは確かにあるのだ、と思えるようになったのは、スポニチ本紙に入社後、取材を通して、さまざまなプロスポーツの分野でさまざまなプロ選手の戦いを見聞きするようになってからでした。

特にプロゴルフの分野でトッププロたちが熾烈なつばぜり合いで優勝を争うときなど、ここ一番の1打でなぜ、とても人間技とは思えないワン・ショットが飛び出すのだろうか、という凄さを見せつけられ、ド肝を抜かれて唸(うな)らされることは少なくありません。

私がゴルフの担当記者として日々、トーナメントを追っていた時代は、青木功、中嶋常幸、岡本綾子が全盛のときでしたが、優勝戦線で緊張感を高めた彼・彼女たちは、決まってスーパーショットを放ってギャラリーを沸かせ、例えばショットを曲げて林の中に打ち込んでも、この大ピンチに前方、わずか50センチ四方くらいの小さな空間を抜いてグリーンにオンさせたりするのでした。

元祖・ゾーン体験者だった“神様”

今でも時折、あれは果たして「偶然だったか」と話題になるのが、1983年2月の「ハワイアン・オープン」最終日、最終18番(パー5)で青木が放った、今は伝説となった、あの第3打です。

左ラフからピンまで128ヤード。ピッチング・ウエッジでの1打はピンを目指し、グリーン上でワンバウンドしてカップに中に消えました。土壇場で先行するジャック・レナー(米国)をかわし、日本人初の米ツアー優勝を成し遂げた青木の“軌跡の1打”-大逆転のイーグル・ショットです。

この1打はどこまで計算されたものだったか、という論議は、結構長い間、続けられたものです。が、狙うのは当たり前としても、落下後のボールの行方まではまず、計算できないからね、という意見が多くを占め、この時点では偶然性に落ち着くのが常でした。

プロゴルフの世界に「ゾーン」という言葉が出てきたのは、そう昔のことではありません。

例えばトーナメント中、イーグルを交えたバーディー・ラッシュなどの猛攻を繰り広げ、もう他選手が追いつけない凄いゴルフで異次元の境地に入り込んでしまう選手に対して「ゾーンに入った」という言い方をします。

日々、ハードなトレーニングで心身を鍛え、心理が大きく影響するメンタル・ゲームに対して神経を研ぎ澄ます訓練を積んでいるトッププロたちが、ここ一番の局面で“この1打”にすべてを集中させるとゾーンに入り、雑念などのマイナス材料が排除される最高の心理状態に支配されるようになります。

ここに入り込むと、極端に言うなら、打球のラインさえも予測され、グリーン上でも、パットのラインが樋(とい)になって見えるようになる、という選手もいました。

「マスターズ」などの大舞台でタイガー・ウッズ(米国)ら世界のトッププロたちが、とてつもないスーパーショットを放ちながら優勝争いを繰り広げるのは、それぞれがゾーンに入り込んでぶつかり合っているからでしょう。

と考えれば当時、ゾーンという言葉がなかった青木の奇跡の1打は今、ゾーンに入った1打、ということも言えるだろうし、偶然性との割合は五分五分という説明ができるようになったと思います。

そして“神様”川上氏の伝説のフレーズは、いってみれば「元祖・ゾーン体験者」ということが言えると思います。人間の可能性は、ホント、凄いですね!
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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