33歳の奪還劇に見た“ひと味”

相手が37歳なら、こちらは33歳です。

相手が坂田健史、亀田大毅、名城信男らを蹴散らした“日本人キラー”なら、こちらはこれまで対タイ選手5戦5勝の“タイ人キラー”です。

となればこの試合、最大の焦点は“駆け引きの妙”だったでしょうか。

3月26日、東京・後楽園ホールで行われたプロボクシングWBA世界スーパーフライ級暫定王者デンカオセーン・カオウィチット(37=タイ)vs元WBA世界同級王者(同級2位)河野公平(33=ワタナベ)のWBA世界同級王座決定戦の戦いです。

河野と言えば“タフボーイ”あるいは“リトル・ブルドーザー”の異名どおり、休むことのない手数と最後の最後まで前進! が持ち味のファイターです。

その戦法で2012年12月31日、WBA世界スーパーフライ級王座への3度目の挑戦で王者テーパリット・ゴーキャットジム(タイ)を4回KOに下し、悲願の戴冠を成し遂げています。

その後、WBA世界スーパーフライ級暫定王者リボリオ・ソリス(ベネズエラ)とのWBA世界同級王座統一戦(2013年5月6日)に判定で敗れ、これが「負ければ引退」を覚悟した5度目の世界戦となりました。

オオッ! と思ったのは序盤、河野は足を使って動き、いつもの打ち合いを控えた戦い方でスタートしたことに対して、でした。

対照的にデンカオセーンがグイグイと前進、威力のあるパンチを放ってきます。

2回、そのデンカオセーンをぐらつかせた河野の右カウンターが、あるいはこの試合の結末を暗示していたかもしれません。

攻めるデンカオセーン。打ち合わずに足を使って動き、右のタイミングを計る河野。そして4回、相手の右に合わせたカウンターの右フックが決まり、デンカオセーンからダウンを奪いました。

練習を積み重ねた「合わせる右」

普通なら“ここから出る”と、河野の戦い方を知るものなら誰もが思ったことでしょう。が、あれれ! です。河野は相変わらず、足を使って動き、距離を取って積極的な攻めに出ません。

試合後の河野の談話-。
〈相手が後半に落ちることは分かっていましたからね。打ち合わずに我慢することは、セコンドと念入りに打ち合わせていましたから〉

が、そのためにデンカオセーンは、ダウンのダメージから立ち直り、息を吹き返します。河野が受け身に回っているため、デンカオセーンを攻めやすくさせているのでは? との印象もあり、ちょっと首を傾げてしまったのが、後半戦に入った7回の攻防でした。

ちなみに7回を終えた段階でジャッジの採点は3者3様のドロー。河野が奪った4回のダウンは、なにやら影が薄くなってきつつある情勢となりました。

・・・そして8回。見る者の目をこすらせる出来事が起こります。エエッ! どうしたの? 離れて動いていた河野の右ストレートがデンカオセーンの顔をビシッととらえ、デンカオセーンはうつぶせに倒れて立ち上がれないのです。

8回50秒、10カウントのKO勝です。

試合後の河野の談話-。
〈右を合わせる練習を積み重ねてきました。バシッ! とね。トレーナー(高橋智明さん)は、これを“一撃”と呼んでいました。8回ですか。手応えありました。ステップして踏み込んでバシッ! ですからね〉

誰もが相手を研究し、作戦を練り、決め手を繰り返し練習します。が、相手も同様のことをしており、頭では分かっていても、練習通りのことはなかなか出来ないのが普通です。

が、河野は「合わせる右」を2度も3度も当てベルトの奪還に成功しました。「うまかった。パンチもあった」と振り返ったデンカオセーンと打ち合っていたら、果たして結末はどうなっていたか分かりません。

この試合、足を使って距離を取り、打ち合いを我慢して機をうかがった河野の作戦勝ち、というより、負ければ引退を覚悟した男の“駆け引きの妙”だったでしょうか。

王座から陥落したソリス戦での敗北の後は「悔しくて毎日泣いていた」そうですが、やはり悔しさは、立ち直ったとき、人間の幅を広げているようです。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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