ああ、我が思春期の懐かしき山々よ!

ノンフィクション作家だった故・佐瀬稔さん(1998年5月逝去=享年65)は、私たちスポーツ・ライターの大先輩です。

生前の佐瀬さんは、報知新聞社(現・スポーツ報知)で活躍後、フリーとなってからは、スポーツのジャンルだけでなく、日本推理作家協会賞を受賞した「金属バット殺人事件」(1984年)など、社会派としても健筆をふるい、新聞記者らしい分析、簡潔で的確な表現で私たち後輩をリードしてくれていました。

取材の現場で私がしばしば、佐瀬さんと顔を合わせたのは、ボクシング場でしたが、若い記者たちに負けない、いや、負けないどころか、それ以上の熱意に毎回、とてもかなわないなァ! と脱帽させられたものでした。

報知新聞社は、運動部長、文化部長を歴任後に退社していますが、佐瀬さんがよく口にしていた「部下を管理するのは苦手」という言葉に根っからの、言葉は悪いですが“書き屋”の信念-つまり、自分が取材して自分が書く、ことの意義を感じたものです。

惜しまれて亡くなった佐瀬さんを、こうして思い出したのは、先日、友人と雑談していたとき、話題が「若き日の山の思い出」に及んだからでした。

「山ねェ。そういえば昔、よく歩いたものだよねェ」と友人。まったくあのころ、ホント、よく歩いたものでしたっけ・・・。

私がよく山に向かったのは、そうです、昭和30年代、10代半ばの“思春期”のころだったでしょうか。現在と同じ藤沢市(神奈川県)に住んでいたことで、行く山はもっぱら、近場の「丹沢」でした。

尾根から始まり、次第に沢へ-。

そして、そこは・・・これは後々の話になりますが、山岳ものも得意分野だった佐瀬さんが著した「喪われた岩壁~第2次RCCの青春群像」に、その当時、丹沢に向かう若者たちの生態が興味深く描かれていて、私などは身を震わせて、不思議な感慨に包まれたものでした。

ちびた女下駄で向かった沢筋

佐瀬さん、ちょっと引用させてもらいますよ。

〈丹沢の沢筋には(略)奇妙な風俗が流行している。だぶだふのニッカー・ズボンに工事現場ふうの脚絆、かつては伊達だったかも知れない背広の古チョッキ、頭には、ツバを切り落とし、わざと変形させたソフト帽をかぶる。古ソフトが手に入らない者は、工事現場そのもののねじり鉢巻きを用いる(略)〉

さらに-こう続きます。ここからが本領発揮? です

〈彼らは下駄ばきで新宿を発ち、沢筋にかかるところでワラジに履きかえ、下駄は背中の袋にしまう。かさばらなくていい、ということで下駄は、ちびた女性ものが好んで用いられた。(略)はやり始めたとたん、それはもう、一種の「伊達趣味」になっている。赤い鼻緒のすり減った女下駄くらいにしか、彼らのダンディズムは表現の機会がなかったのだ〉

佐瀬さんの、こうした描写・分析は、私はもちろん、山などに行かなくなった後年、佐瀬さんの「喪われた・・・」によって知るわけですが、私はまったく、当時の私がその通りのことをしていたことに驚き、そして、極めつけは“この部分”だったのです。

〈彼らを現場労働者とへだてるのは、肩から脇の下にかけた麻のザイルと、腰に下げたハーケン、カラビナである。ことさら素性の悪さ、あやしげさを強調するファッションを身につけている一方で、少年たちはザイルやハーケンによっておのれのアイデンティティーを主張していた〉

・・・別のある日、これは最近のことですが、知り合いの女性が丹沢のガイドブックを熱心に読んでいました。

近年は「○○女子」とか「××女子会」とか、女子&女子会の名称のもとに、女性たちが集まって飲み会や釣り、山歩きなどをにぎやかにやることが流行っているようですが、その彼女も「山女」いや「山女子」の一人になりたいのでしょう。

フ~ン、山ねェ・・・で、丹沢のどこへ?

「バカ尾根登って塔ノ岳から鍋割(山)かなァ」

私たちが最初に丹沢を歩いた入門編ですね。そこから暗い沢筋に向かおうなどという、10代半ばの思春期の少年の、複雑極まるバンカラ・ダンディズムなど、話しても、ハア↗ それってナニ? で到底、理解されるものではないでしょうねェ。

ああ、我が思春期の、懐かしき山々よ!
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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