進む勇気と退く勇気の紙一重の差

感動を生んだ“あの行為”は、果たして正しかったのか、あるいは無謀だったのか、さまざまな意見が飛び交っています。

中国・上海で開催されたフィギュアスケートのGPシリーズ第3戦「中国杯」最終日(11月8日)、男子フリーの直前練習で中国選手と激突、負傷しながら強行出場した羽生結弦(19=ANA)の“突撃精神”について、です。

11月11日朝、日ごろ、忌憚(きたん)のない意見を言い合っている友人から、さっそく電話がかかってきました。

友人が言います。

〈どう思う? 進む勇気、退く勇気、というけど、あの状況の場合、進む勇気は、イコール無謀だと思うね。登山でいうなら、遭難に向かって突き進むようなものだろう〉

直前の6分間練習で起きた、あの衝突の場面、テレビの画面に映し出されたものですが、それでも相当なスピードが感じられ、先に起き上がった中国選手(閻涵=エン・カン=18)に対して羽生は、しばらく氷上に倒れたままの状況となり、衝撃度の大きさを漂わせました。

頭とあごから流血して出場が危ぶまれた羽生は、しかし、頭に包帯を巻き、あごには止血のテープを貼って強行出場。ジャンプで転倒を繰り返し、ふらつく足元と体にムチ打って「オペラ座の怪人」を最後まで貫く、気迫の演技を見せました。

「ここでヒーローになる必要はない」と打診したコーチのブライアン・オーサー氏は、羽生の出場に向けた「固い意志」を止められず、氷上に送り出した、とのことでした。

正しい判断はコーチが下すべきだ

友人が続けます。

〈頭を打っているんだからね。本人の意思が固いって言ったって、選手はどんな状態でも戦いたいのは当たり前なんだから。状況の判断は、最終的にコーチが下すべきでしょ。これで何か起きちゃったらどうするの〉

確かに11月9日の帰国後、羽生が行った精密検査の診断は、頭部挫創、下顎挫創、腹部挫創、左大腿挫創、右足関節捻挫、ということで全治約2~3週間となりました。

何よりも頭を強打したことによる脳の異常がなかったことは不幸中の幸いだったとはいえ、今後のスケジュールを大幅に修正しなくてはならなくなったことは確かです。

こうしたアクシデントが起きた場合、普通はオーサー氏が言うように「ここでヒーローになる必要はない」と無理せず、棄権することが、今後のことも視野に入れれば「正解」だったかもしれません。

が、今年2月のソチ冬季五輪で金メダルを獲得した羽生にしてみれば、何のこれしき、ここで棄権などしては男がすたる! 頭の包帯を日の丸のハチマキに替えたいくらいの気持ちだったかもしれません。無謀であっても、それが19歳の勢い、というものでしょう。

友人が指摘した、進む勇気と退く勇気、は、まさに“紙一重”なのです。

そんな羽生の行為は“スポ根”だろ、という声が一方にあります。今ふうの科学的な判断を下すなら、頭を強打して脳震盪(しんとう)を起こしているかもしれない状況下であれば、今後への影響、場合によっては命にも関わりかねない危険性、などを考慮して棄権するのが当然だろう、いうことになります。

が、そこには、人がスポーツで発揮する、困難を乗り越える気迫や闘志、などの“スポ根”的要素が欠け、観戦者に与える感動も薄れてしまいます。

私自身は、あの羽生の行為が、たとえ“蛮勇”だったとしても、19歳の青年の意地を支持したいと思います。

選手はどんな状況下にあっても“スポ根”的に突っ走りたいものなのです。が、一方、羽生を取り囲む、コーチを含む関係者たちは、羽生の気迫に押されることなく、冷静に正しい判断を下さなくてはならないと思います。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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