映画「安城家の舞踏会」を観て・・・

先日、面白い映画を観(み)る機会を得ました。

吉村公三郎監督の松竹作品「安城家の舞踏会」(1947年=昭22=9月公開)で、ある映画研究会の集まりに参加させていただき、鑑賞してきました。

映画は、日本の華族制度の廃止にともない、華族の中でも名門とうたわれた「安城家」の人々の、ついには、屋敷を含む財産のすべてを手放さざるを得なくなった苦悩と憂鬱、未練を、最後に開いた舞踏会を通して描いています。

日本の華族制度は、資料によると明治の初期、大名や公家などを特別な身分とするため‎につくられた階級制度です。この制度は、第二次世界大戦直後の1947年(昭22)5月、新憲法の「法の下の平等」により廃止されています。

この映画「安城家の舞踏会」が、華族制度が廃止された年の5月から、わずか4カ月後の9月にタイミングよく公開されていることから、あるいは終戦直後の日本を統治したGHQの介入、没落華族をみせしめる意図があったのかも? などと一瞬、うがった見方も横切りましたが、別にそれはなく、新藤兼人がチェーホフの戯曲「桜の園」を元にして一気に書き上げた独自の脚本だったそうです。

私が、冒頭に〈面白い〉と記したのは、映画のストーリーだけでなく、そうした終戦直後の社会の変革を背景とした、タイミングのいい公開に興味を持ったからでした。

名門家族として華やかに生き延びてきた安城家も、時代の流れには勝てず、ついに抵当に入れた屋敷までも手放さなければならないときが来ます。

絶望と未練の中で苦悩する当主の安城“滝沢修”忠彦は、最後の舞踏会を開催することを提案、実行に移します。

華族制度の廃止による絶望と未練

安城家の次女・安城“原節子”敦子は、これに反対しますが、忠彦の胸中には、長男・安城“森雅之”正彦が婚約を交わしている新川“津島恵子”曜子の父親、闇会社を営む新川“清水将夫”龍三郎をこの場に招き、かつての借金のかたに屋敷を手に入れてようとしていることを辞めさせ、許しを請おう、という、初めて他人に頭を下げる気持ち、プライドを捨てた安城家の最後のあがきが、この舞踏会開催に込められていました。

・・・が、すべては無に帰します。懇願を新川に冷たくあしらわれ、あげく曜子との婚約話も解消させられ、それを立ち聞きした正彦は怒り、曜子を外に連れ出し、強引に組み伏してしまうという、むごい仕打ちに出てしまいます。

時代の変革が、既に“旧”となってしまった名門華族を包み込み、にぎやかな舞踏会の終わりが、安城家の終焉(えん)をも告げます。明日が見えない忠彦は、絶望の淵に立ち、拳銃自殺を図りますが、間一髪、敦子がこれを阻止、2人だけの舞踏会、ラストダンスで明日に向かう気力、生きる力を奮い立たせます。

・・・そして、忠彦と芸者で妾の千代“村田知英子”の結婚。正彦の、かねてから関係を持っていた小間使いの菊“空あけみ”との愛情復活。さらに安城家の長女・安城“逢初夢子”昭子が、かつては安城家の運転手を務め、今、にわか成金にのし上がった、身分の違う遠山“神田隆”庫吉をプライドをかなぐり捨てて追いかけるシーン・・・。

この光景に、かつての名門華族が解体され、すべてが“法の下に平等”となる姿が描かれているようでした。

映画を観たこの日、大いに驚かされたことがありました。

松竹の調音技師として長い間、活躍されていた松本隆司氏が、この研究会に出席していたのですが、調音技師を志したのが、この「安城家の舞踏会」を観たときだった、という“秘話”が明かされたのです。

忠彦が拳銃自殺を図るシーン。敦子が勢いよく飛び込んでこれを阻止しますが、このとき拳銃がフロアを滑って走り、部屋の隅のビール瓶に当たって音を立てます。

松本氏は「このシーンの音を聞いて調音技師となることを決めた」と語ってくれましたが、これにはビックリしました。なぜなら普通、映画界を志す人たちは、監督や脚本家、あるいは俳優などでしょうが、音をやりたくて松竹の入社試験を受けた、ということの松本氏の着眼には、本当に驚かされるばかりでした。

映画をつくる人たちというのは、こういう人たちが集まっているのですね。

ただただ尊敬! の一言でした。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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