“ブンヤ”の時代にあったこと

取材の現場に出ると、例えばイベントの会場に設置されたプレス用の記者室は、今やモバイル機器のオンパレードです。

記者にとってもはや“命綱”的となっているノート・パソコンを筆頭に、スマートフォン(多機能携帯電話)など各種の端末で、素早くデータを確認しながら、原稿をパソコンに打ち込み、書き終えれば「送信」クリックで一気に本社の端末への送稿が完了します。

こうした作業を日々、繰り返す、現役の若い記者たちに感じることは、当たり前のように速く、達者なパソコンのキーボード操作に象徴される、スマートな新聞記者像、でしょうか。

私がスポニチ本紙に入社したころ、送稿手段は電話とファクシミリでした。

従って常に持って歩くのは、原稿用紙と鉛筆(あるいはボールペン)-典型的な〈紙の時代〉です。

現在、スポニチ本紙の紙面での一段は「12字」となっています。当初は「15字」で活字が小さかったのですが、読みやすくするため、次第に活字を大きくして、その分、字数は少なくなってきています。

当時の原稿用紙は、1枚がちゃんと「15字×10行」に仕様されていて、40行の分量の記事を書くには、原稿用紙4枚書けばいいのですが、一方、そのころはまだ、ざら紙を愛用する先輩記者もいました。

ざら紙には、5字×3行の文字、を書きます。つまり、15字=「1枚1行」で、40行の分量なら、ざら紙40枚、というわけで、これはもう職人の技、匠の技? といえたでしょうか。

イベント会場にファクシミリが設置されているとき、原稿用紙に書かれた記事は、そこから送稿されますが、ファクシミリがない場合は、電話で読み上げ、本社の「連絡部」に送り込み、そこの速記者に受けてもらいます。

電話送稿は、簡単なようでいて、周囲の雑音などもあり、結構、テクニックがいります。

エッ? 朝日のア、ですか?

例えば外国人の名前などは、正確を期すため、通信通話用の文字で説明しなければなりません。

つまり・・・「ア」=朝日のア、「イ」=いろはのイ、「ウ」=上野のウ、「エ」=英語のエ、「オ」=大阪のオ・・・といった具合ですね。

これは、覚えてしまえば、別にどうということはないのですが、入社早々の研修段階での〈記者心得〉としては、何やら“手旗信号”を覚えさせられるのと似ていてやっかいです。

固有名詞、あるいは人名は、必ず文字の説明が必要でした。

例えば、私の名前「佐藤彰雄」を送るとき、送稿者は電話口でこうしゃべります。

〈エ~ッと、サトウのサは「ニンベンに左のサ」、フジは「サガリフジ」、アキは「ブンショウのショウに右にチョン3つ」、オは「エイユウのユウ」・・・OKですか〉といった具合です。

「彰雄」の「彰」は、表彰だったり顕彰だったり、説明の仕方はいろいろありますが、彰義隊の彰だよ、など日ごろ、身近にないものが多く、受け手から、エッ、何ですか? 彰義隊って何? などと聞き返されてしまいます。

余計なことではありますが、ちなみに〈彰義隊〉とは「慶応4年(1868年)2月、前将軍・徳川慶喜の恭順を喜ばない幕臣らが、江戸浅草本願寺に拠り編制した隊」(広辞苑)と記述されています。

説明に難しい「彰」を、今の、パソコン一発変換組の若い記者たちは、笑うかもしれませんね。が、パソコンだって「彰」を「あき」で変換させると、1枚目9種類の中にはなく、出てくるのは、5枚目の6番目、と時間がかかります。

この「彰」を「しょう」で変換させても、実に9枚目の最後! でイライラ。ちなみに「彰雄」も素直には出てくれず、5枚目にようやく「彰」の部が出てきて「彰雄」は6枚目にやっと出てきました。

・・・であれば「ブンショウのショウに右にチョン3つ」というほうが、どうにも“ブンヤ”的な荒っぽい表現ですが、簡略的、分かりやすさ、では的を射ている伝達法ですね。

パソコンやデジカメなどの普及は、紙と鉛筆を持って走り回っていた時代の記者像を大きく変えています。世界の動きとも一体化。

私たちが新米時代に身につけた「朝日のア」・・・に代わって、今は「キーボード速打法」の習熟のほうが、より実戦的になったようです。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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