新聞が「便利な紙」に変わるとき

書棚の片隅で埃(ほこり)にまみれていた一冊の古い文庫本を、ああ、こんなところにあった! と懐かしくなって手に取りました。

古谷糸子著の「ジャーナリスト~新聞記者の眼~」(現代教養文庫=社会思想社刊)です。

この書は、毎日新聞に勤務する女性記者の古谷女史が、日々の記者活動の中で直面するさまざまな出来ごとに対して、あるいは疑問を持ったり、あるいは自分の姿勢を反省したり・・・を淡々と、しかし、鋭い視線で書き綴ったものです。

昔のことですが、私も駆け出し記者時代、この本を愛読書として読みふけり、ところどころに赤線が引かれているなど、そのころの名残(なごり)に当時を思い出し、ついついまた、読みふけってしまいました。

そうだよなァ。オレだけじゃない。携わるものは皆、そう思うんだよなァ。

思わず共感してしまった記述は〈記者と生活〉の項にある「一枚の新聞紙~新聞への感傷」でした。

その内容をザッとまとめてみます。

編集局の床の片隅に落ちていた1枚の新聞を、古谷女史は、何気なく拾って机の上に置き直します。

別にどうということもなく、自慢にもならない、まったくさりげない行為でしたが、なぜ自分はそうしたか? そう思った古谷女史は、新聞にお弁当の汁をにじませたり、汚れ落としに使う気になれない、と思う気持ちが胸中にあることに気づきます。

〈終戦後、間もなく、夕刊が売り出されたときには、駅の売店には夕刊を買う人が列をつくった。それは夕刊を読むためではなく、包み紙にするためであった。たくさんの問屋が先を争っているのを見て“新聞も包み紙の値打ちしかなくなったのか・・・”などと、自嘲気味な気持ちでながめていたこともあったが・・・(略)〉

それは単なる“記者の感傷”ですか?

古谷女史は、ふと覚えた“ためらい”を〈それは自分たちがつくっている新聞だけではない。新聞全体にそんな愛着を感じているというのか-あるいは自分のしていることを価値づけようとする欲張り根性のせいかもしれない〉と感じ、こう自問自答します。

〈こんなことは感傷にすぎないと思い直すのだが、生理的に堪えられない気持ちになるのは自分ながら困ったことだと思う〉

と-。

こうしたことを皆さんはどう思うでしょうか。

私は本当に“そうだよなァ”と共感してしまいます。

実際、街中の青果店のおばちゃんが、自分のところの新聞-ときには自分が書いた記事のところ-で品物をくるんで販売していることなどに接すると、古谷女史ではありませんが、ちょっと落ち込み、自嘲気味となってしまいます。

ああ、あそこに書かれている記事は、前日にどれだけ自分が飛び回り、取材先で叱られ、会社のデスクにも叱られ、ようやく書き上げたものなのに・・・などのことは、まったく自分自身の問題、単なる感傷に過ぎないのですが、そうしてもらいたくない、モノを包むより、そこに書かれているモノを読んでほしい、と思ってしまうのです。

ですから私は、まだ子供が小さいとき、家の中に無造作に置かれている新聞を、丁寧に畳んで机の上に置くように、と言ったし、新聞を踏むなよ、とも言っていました。

が、しかし、こうした“つくり手(書き手)”の感情は別にして、午前中に役割を終えた新聞の午後以降の活用法が多岐にわたっていることには、少なからず驚かされます。

吸水性のいい新聞紙は、例えば「生ごみ入れの底に敷いておくといい」とか「濡れた靴の中に丸めて入れておくといい」とか、あるいは廃油処理とかの活用法があり、また、掃除の際も「濡らして窓を拭くとインクの油分でコーティングされる」とか「濡らしてちぎって床に撒けばホコリが立たずに細かいものも取れる」とか、まさに八面六臂(はちめんろっぴ=一人であらゆる方面に活躍する様子)の大活躍です。

とはいえ、その“二次的”用途は、犬や猫のおしっこ場とか、生ごみ入れの下敷きとか、なぜか日が当たらない“陰の部分”ばかりであることが気になります。

ニュース・ペーパーである新聞が、朝のひとときの役目を終えて「便利な紙(かみ)」に変わるとき-さまざまな形で活用されることは喜ばしいことですが、それは一方“つくり手(書き手)”がもっとも複雑な気持ちとなるときでもあります。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

最新記事
カテゴリ
最新トラックバック
月別アーカイブ
最新コメント
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アクセスランキング
ランクアップにご協力下さい
↓↓↓↓クリック↓↓↓↓
QRコード
QR