最後まで貫いた“悪役”スタイル

結局、この“天才”は、最後の最後まで「自分のために戦った」ということでしょう。

まあ、それは、当たり前と言えば当たり前のことなのですが、では、彼に浴びせられたファンのブーイングを、プロとしてどう受け止めたことでしょうか。

9月12日(日本時間同13日)米ネバダ州ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで行われたプロボクシングのWBA&WBC世界ウエルター級タイトルマッチで、WBA世界同級暫定王者アンドレ・ベルト(32=米国)を判定に下した統一王者フロイド・メイウェザー(38=米国)です。(試合はWOWOWプライムの「エキサイトマッチ・スペシャル」で生中継)

この試合をラストマッチと公言したメイウェザーは、試合前日の11日に行われた公開計量の場でこう言い、詰めかけた観客の拍手を浴びています。

明日はファンのために戦うよ

この言葉は、誰が聞いても、言い換えれば〈明日は倒して勝つよ〉であり、それを望むファンも“よく言ってくれた”ということで“頼むぞ!”と手を叩いたことでしょう。

その試合は、どうだったでしょうか。

相手のベルトは、かつて“メイウェザーの後継者”と呼ばれたこともある、スピードと右の強打を備えた選手です。メイウェザーは2008年6月、一度引退を表明してリングを離れていますが(2009年9月に復帰)ちょうどその時期、空位となったWBC世界ウエルター級王座をベルトが手にしているのです。

メイウェザーの引退がなければ、その頃、対戦が実現していたかもしれないベルトですが、点と点がようやく線で結ばれた対戦実現に、その意気込みは相当なものだったでしょう。

“攻撃は力”を“智は力”に変えた男

いきなり速いジャブで先制したのはベルトでした。が、メイウェザーは、それを上回る速いジャブをビシビシと複数、返します。

それでリズムに乗り、主導権を握られる前に何とか崩したいベルトでしたが、とにかくジャブが届かず、当たらないパンチに優劣は序盤で明らかになってしまいます。

意に反して早くも受けに回ってしまい、ただ前に出るだけになってしまったベルトを嘲笑するかのようにメイウェザーは、華麗なフットワークと体さばきで寄せつけず、L字ガードからの高速ジャブ、ノーモーションの右で翻弄します。

後は中盤以降、一生懸命に攻めようとするベルトの真面目さが気の毒になるほどの展開となってしまいます。

何しろメイウェザーはもう、ガードを下げて踊ってしまっているのですから。

判定の採点を先に書かせてもらいましょう。3人のジャッジは117-111、118-110、120-108、と1人がフルマークをつける、メイウェザーの大差の勝利でした。

こういう一方的な展開になったとき、例えば西岡利晃(帝拳、引退=元WBC世界スーパーバンタム級王者)なら、あるいは山中慎介(帝拳=WBC世界バンタム級王者)なら、また内山高志(ワタナベ=WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者)なら、それを望むファンのために何とか倒そうと工夫することでしょう。

そして・・・倒せなければ、試合後のリング上で「(つまらない試合で)申し訳ない」とファンに頭を下げるのが常です。

最終12Rの残り10秒。メイウェザーがしたことは、戦うことをやめ、フットワークでリングを回ることでした。

WOWOW「エキサイトマッチ」の解説陣である元世界王者・浜田剛史氏とジョー小泉氏が言いました。

これまであったボクシングの見方、考え方を変えた選手ですね。つまり、打たなければ勝てない、から、打たれなければ勝てる、というスタイルを確立させました」(浜田氏)

攻撃は力でした。が、彼は“智は力”にしてしまった」(小泉氏)

1996年10月のプロデビューから19年間。伝説の元世界ヘビー級王者ロッキー・マルシアーノ(米国)と並ぶ49戦全勝の戦績・・・。

オスカー・デラホーヤ(米国)が、ミゲール・コット(ブエルトリコ)が、またサウス・アルバレス(メキシコ)が、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)が、そしてマニー・パッキャオ(フィリピン)までもが、ことごとく悔しい思いをさせられたメイウェザーという男は、やはり、一時代を築いたスーパースターなのでしょうね。

ただし、拍手よりブーイングがよく似合う、ファンのためより、自分のために戦う“悪役”として-。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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