異色の小津作品~映画「浮草」を観て

映画愛好家たちの集まりに参加。上映された小津安二郎監督の「浮草」(大映=1959年公開)を観てきました。

ン? 松竹の小津さんが大映で製作? そうです。いきさつを記した資料によると、1958年公開の「彼岸花」(松竹)製作の際、大映から山本富士子を拝借したことで、その借りを返す形で初めて大映で製作した作品、ということでした。

「浮草」は、1934年公開の小津作品「浮草物語」(松竹=サイレント映画)を小津監督自らがリメイクしたものですが、一つの焦点は、借りを返す形で着手した他社への作品で、持ち味の〈「小津調」はどう表現されるのか〉ということにあったと思います。

そのシーンは、いきなり表れます。

嵐駒十郎(中村鴈治郎)を座長とする旅芝居の一座が、志摩半島の大王町にやってきます。

ちなみにこの立地は、小津監督が、父親の故郷であり、小・中学校時代を過ごした三重県南部(松坂市)に当たります。

さて・・・一座は、興行の宣伝のため、町中をチンチン・ドンドンとにぎやかに練り歩きます。そのシーンを小津監督はカメラマン(撮影・宮川一夫)に“俯瞰(ふかん)”の指示を出しています。

小津監督と言えば、下から見上げるロー・ポジションでのアングルが特徴です。多くの作品にそれが生かされていますが、それは「小津調」として定着しています。

観る側にしてみれば、まず、この冒頭のシーンで「オオッ!」となり、これはいつもと違うぞ、何かが起こりそうだぞ、と波乱を期待します。

そうした観る側の期待感の中で小津監督は、それを見越したように、男女のドロドロ愛憎劇を重厚に展開させていくのです。

らしくないむき出しのドロドロ愛憎劇

この町には、その昔、駒十郎が関係を持ったお芳(杉村春子)が、一膳めし屋を営んでおり、2人の間に出来た一人息子の清(川口浩)も、郵便局員として日々、平穏無事に暮らしています。

そこに駒十郎が現れ、しかも、駒十郎は一座のすみ子(京マチ子)を愛人にしており、生々しい三角関係の勃発が第1の愛憎劇です。

第2の愛憎劇は、すみ子の妹分、一座の加代(若尾文子)と清が、最初はいたずらのちょっかい~すみ子が加代を使って清を誘惑させたこと~をキッカケに逆に次第に熱くなり、そこに怒り心頭の駒十郎がからんで波乱を巻き起こします。

それぞれの、激しい怒鳴り合い、ののしり合い、が随所に展開されます。

地面を叩く土砂降りの夕立の中、道路を挟んでののしりあう駒十郎とすみ子。ずぶ濡れのすみ子の凄艶な美・・・。一方、すべてを飲み込んで“静”を決め込むお芳とむき出しの感情で激しく迫る“動”のすみ子の対比・・・。

清と加代の密会を目撃した駒十郎の、加代へのののしりと加代の開き直り・・・。

これらの愛憎劇を、これでもか! と叩きつけるように表したのは、松竹のカラー(いわゆる女性メロドラマと庶民的人情ものと言われていました)にはないもので、ひょっとしたら小津監督は、松竹の手かせ足かせから解放され、他社で内に秘めていた本領を出してみたのかも、とも思ってしまいました。

一座は観客の不入りで興行の続行が危うくなる中、吉之助(三井弘次)の持ち逃げで、にっちもさっちも行かなくなり、ついに解散に追い込まれます。

窮地に追い込まれながらも駒十郎は、清にそれまで隠していた父親を明かし、加代の仲を認め、自ら一人、町を去る駅の待合い

室で、こちらも一人たたずむすみ子と出くわします。

煙草を吸おうとマッチを探す駒十郎の前にすみ子が立ち、マッチを擦って火を差し出します。一度、二度と顔をそむける駒十郎でしたが、やがてその火を受け、もう一度出直そうか、と寄り添うのでした。

他社に出向いた監督が、その社の大スターたちを意のままに動かすことは、自社のそれとは大分勝手が違うのだそうです。

そうした難しさが予想される中、中村鴈治郎の圧倒的な存在感、女の情念あふれる京マチ子の魅力、さらには杉村春子の貫禄十分の演技・・・と小津監督の手腕が裏付けられます。

小津監督らしくない作品と受け止めるのか、あるいは小津監督が内に閉ざしていた本領発揮の作品、と解釈すべきなのか、いずれにしろ、深い味わいを感じる名作でした。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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