熱すぎたICUの夜

前回(12月13日付)のこの欄で〈入院中の病院食〉について書かせてもらいました。

その続編というわけではありませんが、入院中、なかなか感動的だなァ、と思う出来ごとに遭遇したもので、病院生活第2弾として披露させてもらいます。

手術を終えた後、私は「ICU(Intensive Care Unit)=集中治療室」に運び込まれました。

ここに運び込まれた患者は、私のように手術直後で様子見の人だったり、容態が急変して一般病棟から移されてきた人だったり、とにかく患者はグッタリですが、対照的にスタッフは、テキパキと何が起ころうと動じない気構えの人たちばかりで元気いっぱいです。

それは、まあ、ICUの患者たちは、24時間態勢で監視下に置かれ、突発的に何らかの異状が起きても、迅速な対応で処置されようとしているのですから、スタッフが気合十分なのは、当たり前といえば当たり前、なのですが、やはりここの空気は、常にピ~ンと張り詰めている感じです。

私がICUのベッドに寝かされたとき、右隣のベッドに寝ている高齢者の患者は、意識が混濁しているようで、お見舞いに来た家族の激励にも、あまり反応がないようでした。

左隣のベッドには、私のように手術直後の患者が運び込まれましたが、仕切りのカーテンの向こう側は静まり返っていて物音ひとつ、聞こえてきません。

弱った患者たちを励ます“娑婆の声”

それでなくてもICUには、さまざまな金属音がビッビッ! とか、ピー! とか常に鳴り響いており、状態が良くない患者たちにとって、何かが起きれば対応は速いでしょうが、静かに休息するということを考えるなら、必ずしもいい環境とはいえません。

さまざまな装置が発する金属音に加えてこのICUには、夕刻になると、手術などを終えた医師たちが手術着そのままの姿でドドッと集まってきました。

つまり、この場所はまた、医師たちの“溜まり場”的な様相を呈しているのです。

荒々しく飛び交う言葉は、専門用語が多く、それは彼らが意識的に患者たちに理解されないようにしているようでもありましたが、ニュアンスからは、あの場面はこうだった、以前したときはこうだった、あ~だ、こ~だ、といった感じでした。

やがてこの熱すぎる論争の輪にベテランらしい医師も加わります。若い医師、年配の医師、むしろ言い争いにも聞こえる大声は、午後9時の一般病棟消灯時間まで続き、しかし、こちらのICUは、終わりが見えません。

私は当初、いったいこの雑音は何なんだ! と腹を立てていました。グロッギー気味の患者不在じゃないか、その上を飛び交う“声の暴力”じゃないか! うるさい! 眠れないぞ! と。

しかし、考えても見て下さい。ICUのベッドで熟睡できる患者など少ないのです。たいていは、どこかが痛かったり、排尿困難で苦しんでいたり、あるいは仰向け状態で動けなかったり、ウトウトするのが精一杯、というのが本当のところでしょう。

そうした患者たちにとっては、医師たちの生に満ちた熱い論争は、見方を変えれば〈娑婆の声〉であり、静まり返った中、金属音だけが鳴り響くICUであっては、患者たちは、あるいは良くなるものも、良くならない事態に陥ってしまうかもしれないのです。

傍若無人の論争は、新聞記者だって同じだろ! あれが出来るのは元気なものだけだ、元気になってまたやろう! そう思ってウトウトし始めたとき、看護師さんに起こされました。

〈サトーさん、本当にゴメン。容態が急変した患者さんがここに来るからベッドを交代して・・・〉

午前1時半-。

私は一般病棟に移されました。移動のための車椅子に座って私は、あのICUでの熱い一夜には、まぎれもなく、医師たちの熱血が込められていた、と妙に興奮していました。
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プロフィール

佐藤 彰雄

Author:佐藤 彰雄
◆生年月日 
1944年(昭19)8月生まれ
◆出身 
神奈川県
◆プロフィール
スポーツニッポン新聞社在職中は運動部記者として大相撲、野球、ゴルフ、ボクシング、格闘技などを幅広く取材・執筆。
現在はフリーの立場でボクシングを中心に取材活動を続けている。
ゴルフのマスターズなど海外取材経験も豊富。

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